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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第233回

SoC技術論 SoCが完成してからやるべきこと

2013年12月16日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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チップの動作をソフトで再現する
「モデル」

 次がモデル。前回、シミュレーションを使ってチップ内部の動作を事前に検証したりデバッグをするという話を説明したが、同じことをスマートフォンメーカーも行なっている。

 というのは、SoCが完成してからおもむろに開発を始めていたら、到底間に合わないからだ。特に自身がAlpha Customerだと、SoCの発表に合わせて試作機でいいから展示してくれと言われるわけで、ここでモックアップ(動作しないただの模型)を展示すると技術力を疑われかねない。

 ということは、少なくとも電気的に動作し、しかも全部ではないにせよOSと基本的なアプリケーションくらいは動作する程度の完成度が必要である。まだチップもないのにどうやってこれをやるかということで、やっぱり最初はシミュレーションである。

 例えばARMの場合、同社が提供するDS-5(Development Studio-5)という開発ツールを使うと、CPUがなくても「Cortex-A8/Quad Cortex-A9」のシミュレーションが可能であり、純粋にCPUだけを使うアプリケーションはここで直接開発が可能である。

DS-5のリアルタイム システム モデル シミュレーター。ARMのウェブサイトより抜粋

 ただSoCの場合、他にも色々なデバイス(GPUとかISPとか、勿論モデムなども含む)が内蔵されて全体で動作するので、CPUだけではさすがに話にならない。

 これに関しては、すでにいくつかのベンダーがSoC全体のシミュレーターを提供している。例えばcarbon design systemsでは、「SoC Designer Plus」というSoC全体のシミュレーションツール(同社はVirtual Prototypeと称している)を用意しているし、Imperasという会社も似たようなソリューションを提供している。

SoCのシミュレーター「SoC Designer Plus」。carbon design systemsのウェブサイトより抜粋

 今はインテル(正確にはインテルに買収されたWind River)に買収されたVirtutechという会社もやはり似たようなシミュレーションツールとソリューションを提供している。

 前回、EDAベンダー大手の1つとして名前をだしたCadenceや、そのCadenceに並ぶ大手であるMentor GraphicsといったベンダーもSoCシミュレーターを提供している。

 そこで、SoCベンダーはこれらのシミュレーターのどれを使うかをまず決定する。ここでは当然Alpha Customerにも同じシミュレーターを使ってもらう必要があるので、すり合わせもする。

 次いで、IPを使う部分についてはそのベンダーからシミュレーション用の「モデル」を提供してもらい、SoCベンダー自身が作るものに関しては自身で「モデル」を作ることになる。

 要するに「モデル」というものは、そのIPの振る舞いをソフトウェア的に再現する部品と考えればいい。このモデルをAlpha Customerに提供して、ソフトウェアの開発をしてもらうことになる。

 ちなみにSoCそのものはシミュレーターで実現できるとしても、Alpha Customerが独自に付加する回路、例えば日本ではワンセグ/フルセグTVなどはシミュレーションできない。これをやろうとすると、Alpha Customerが自分でモデルを作る必要がある。

 なかには「すでに動いてる回路はあるけどモデルはない」という場合もある。これに備えて、プロトタイプ用ハードウェアなるものが用意される。下の写真はAPMが同社のX-GeneというARM v8ベースの64bitプロセッサに先立って提供を開始した評価ボードであるが、こうしたものに独自回路を接続、ソフトウェアを検証することになる。

APM(AppliedMicro)が、自社で開発している「X-Gene」の顧客向けに2012年第1四半期から提供を開始したCustomer Eval Board(顧客評価用ボード)。XilinxのVirtex-6を7個使って、「X-Gene」と同じ動作をする回路をボード全体で実現している

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