前回はSoCの製造までの話をしたわけだが、ではSoCを完成させたらそれで終わりか? というと、まだまだそんな話にはならない。
大昔には、まずメーカー内でSoCの設計を行なって、テストが終わってからおもむろに顧客、つまりそのSoCを使って機器を作るベンダーにサンプル出荷を開始、なんて悠長な時代もあった「らしい」。
ところが今は、短TAT(Turn-Around Time)を求められる時代であり、特にスマートフォンのように新陳代謝の激しい商品では、そんな悠長な事はしていられない。現実問題として、昨今のスマートフォン向けSoCの場合、以下のようにシリコン出荷まで突き進むことになる。
- Alpha Customerにヒアリングをしながら、製品企画を決定。
- 企画に合わせてラフな設計を行ない、これをAlpha Customerと共有しながら設計を煮詰める。またこの時点で主要なIPベンダーのあたりをつけて、必要なら事前交渉。
- 企画にGOが出たら、IPベンダーからIPの入手交渉。もっともいきなり契約ではなく、性能見積もりなどから始めることが多い。入手できるものは性能の確認などをこの時点で行なう。またIPを購入しないで自社で開発すべきものに関しては、ここから基本設計を開始する。
- ある程度設計要素が集まってきたところで、シミュレーション用のモデル構築を並行して開始。もちろん論理設計はどんどん進めていく。この時点で、ソフトウェアの開発も開始する。
- 論理設計が一段落し、動作が可能になった時点で、システム検証と並行してプロトタイプ用モデルをAlpha Customerに提供。これに先んじて、システムの電気的仕様や物理的仕様、ソフトウェア仕様などをまとめてAlpha Customerに提供しておく。
- システム検証及びAlpha Customerからのフィードバックを取り込んで構成が確定した時点で、物理設計に入る。並行して、プロトタイプ用ハードウェアや資料、BSPを初めとするソフトウェア類をAlpha Customer以外にも提供する準備を始める。
- 物理設計が終了してAlpha siliconが完成したら、まず社内で検証し、一通り動いているかを確認する。その後、Alpha CustomerにもAlpha siliconを提供し、特性と問題点の洗い出しをする。
- 問題点の対策を物理設計に施したうえで、試作を行ない、こちらはAlpha Customer以外にも広くサンプルを出荷する。
- Alpha Customerからのフィードバックを判断しつつ、量産開始。
SoCベンダーと密接な関係にある大口顧客
「Alpha Customer」
さて、ここで出てきたいくつかの耳慣れない用語を解説しよう。まずAlpha Customer。これはSoCベンダーと関係が深く、かつ技術力あるいは市場支配力の強い大口の顧客を意味する。
SoCベンダーは市場調査をして企画を考えるわけだが、実際にエンドユーザーの動向を把握しているのはスマートフォンを製造・販売しているメーカーであり、彼らの情報は重要である。といって、無節操にスマートフォンのベンダーに情報を開示したら、企画が他のSoCベンダーに流れる可能性もあるし、雑多な意見が山ほど寄せられたところであまり役には立たない。
そうしたこともあって、通常は特に緊密に関係しあう顧客をいくつか選んで、その中で初期段階の企画を決めていくということになる。これがAlpha Customerである。
あるSoCベンダーが新製品を発表する際に「すでにこのSoCを搭載した製品があります」と紹介された場合、その製品を製造しているスマートフォンベンダーがAlpha Customerと考えればいい。そうした製品が皆無というのは、まだコンセプトレベルでチップが影も形もないか、もしくはそもそもAlpha Customerに相当するベンダーを確保できていないというケースである。
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