SoC話も今回で一段落ということにしたい。ということで、いよいよSoCのシリコン完成である。前回も書いた通り、Alpha Customerであればこの時点でプロトタイプのスマートフォンもあり、ちょっとした動作テストやベンチマークなどは走らせられるはずだ。ここまでくればすぐ製品の完成か、というと実はここからも長かったりする。
製品には取扱説明書が必要!
仕様書やデータシートを作成
Alpha Customerを例に取るとやや時系列が混乱するので、ここでは普通の顧客、つまりAlpha Customerではない普通のスマートフォンベンダー向けを例に取ろう。SoCベンダーは以下の作業を物理設計やデバッグと並行して行なう必要がある。
- 論理設計が一段落したタイミングでドキュメントの提供準備を開始する。
- 仕様書の策定と並行して、シミュレータを利用する顧客向けにモデルの提供準備を開始する。
- リファレンスデザインボードの開発に着手する。
ドキュメントの一番大きなものはデータシートだが、ここでは単に動作周波数やコアの構成だけではなく、パッケージサイズやピン配置、それぞれのピンの電気信号の仕様など、非常に多岐に渡る内容が網羅される。
例えばインテルの「Atom Z36xx/Z37xx SoC」のデータシートはオンラインで入手可能だが、Vol.1は291ページ、Vol.2に至っては4273ページもの文量となっている。
もっともこのVol.2の大半を占めるのはSoC Registers、つまりSoCに内蔵される様々な周辺回路の動作を設定したり結果を取得するRegister類の説明に費やされている。ほとんどどがソフトウェア開発者向けのものであり、最初は“To be filled”(後で書く)とだけ書かれた1ページの白紙であることがよくある。
このデータシートは、当然ながら開発の進行に伴って改定されていく。これを渡された顧客も、まずはそのデータシートを読み込むところから作業が始まるのだが、「この信号のこういう場合の定義がない」「この状態で信号の出方がどうなるのかわからない」「この波形、おかしいのでは?」という感じで延々とSoCベンダーとやり取りしながら、理解を深めていく。同時に、SoCベンダーは資料の完成度を高めていく仕組みだ。
この作業が佳境を迎えるのは、Alpha siliconやBeta siliconが登場してからだ。「すみません、こういう仕様で作ってたのですが、信号こうなっちゃいました」「このレジスターでこういう機能を実現するはずだったのですが、なくなりました」という話をSoCベンダーが顧客にする羽目になる。
こんな具合に、データシートをはじめとするさまざまなドキュメントは、量産出荷まで延々と改定され続けるうえ、下手をすると量産後にもリビジョンアップが行なわれて、また改定が入ることになる。
ちなみにドキュメントはデータシートだけではない。例えばリファレンスボードの設計が終わったら設計図が加わり、リファレンス用の部品リストや基板製造に関わる仕様書も作られる。
これとは別に、テスト仕様書なるものが加わる場合もある。こうしたドキュメントは全部電子化されているのが今は普通である。データシートは前述の「Atom Z36xx/Z37xx」のようにPDF化されているし、リファレンスボードの設計図はCAD用のファイルで提供されるのがごく当たり前である。
以前はこれが紙であり、とくに量産初期だとまだ製本されておらず、バインダーに閉じこむ形でドキュメントが提供された結果、全部積み重ねるとメートル単位の厚みになることも珍しくなかったため、このあたりはずいぶん楽になった。
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