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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第230回

SoC技術論 プロセッサー製作のライセンス料とロイヤリティー

2013年11月25日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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コアが決まれば
次は製品の選択

 前述のことから、普通はARMを選ぶのが自然な流れであろう。ARMは現行製品として3種類のラインナップを持っている。アプリケーションプロセッサーの「Cortex-A」、リアルタイム制御向けの「Cortex-R」、マイクロコントローラーの「Cortex-M」だ。

Cortex-Rシリーズの機能。ARMのウェブサイトより抜粋

 スマートフォン/タブレット向けとして考えれば「Cortex-A」シリーズを選択することになる。現在ARMは32bitコアとして「Cortex-A5~A15」をラインナップしており、64bitコアは「Cortex-A50」がある。

 最近ではアップルがA7プロセッサーで64bitに移行したことで話題になったが、現実問題として現時点のスマートフォンに64bit環境が必要かと言われると、そんなことはない。

 そのA7プロセッサーを搭載した「iPhone 5s」や「iPhone 5c」にしても、搭載しているDRAM容量はたかだか1GBだから、64bitの最大の特徴である「4GBを超えるメモリー空間に1プロセスからアクセスできる」がまったくメリットになっていない。

 それにも関わらず64bit化を進める理由は、かつてのx86を思い出せば想像しやすい。AMDがx86-64として「Athlon 64」を投入したのは2003年のこと。64bit版の「Windows XP」が投入されたのは2005年で、ところがユーザーが本格的に移行を始めたのは2009年の「Windows 7」投入からである。

AMDの64bitプロセッサー「Athlon 64」

 要するにハードプラットフォームをまず整え、OSを整え、その後にアプリケーションの移行が徐々に進み、それが充実したところで初めてユーザーの移行が進む形になる。現状ARMもまだハードウェアが揃っただけで、OSはiOS系はともかくAndroidはまだである。

 ハードプラットフォームがそろって、アプリケーションの移行が進むのにはまだ4~5年はかかると思われるが、逆に4~5年後に64bitプラットフォームに移行するためには、そろそろハードウェアの64bit対応が必要と考えれば、現状の64bit化への移行は不思議でもなんでもない。

 では製品としてどういったものに仕上げるかだが、それは以下のどちらかになる。

  • 短期的にパッと作ってパッと売るための製品を作る
  • 長期的に使える製品を作る

 前者であれば、32bitの既存のCortex-Aシリーズから選択するのが賢明だろう。「Cortex-A9」などの古いコアは最近のOSを載せにくくなっているので、いまだと「Cortex-A7/12/15」コアあたりから選択するのが現実的だろう。

 とにかく短気的にパッと作ってパッと売る、という考え方であればSoft IPを購入するよりも、PoP(Processor Optimization Package)あるいはHard IPを購入することで、開発期間を最小にするのが結果として一番賢明である。

 これに対して64bitの方はもうすこし選択肢がある。ARMは大別して大きく2つのライセンスを提供している。プロセッサーライセンスとアーキテクチャーライセンスだ。

既存のCPUを使うなら
プロセッサーライセンス

 プロセッサーライセンスとは連載228回で説明した、CPU回路そのものを提供するライセンスである。SoCを作ろうとするメーカーは、プロセッサーライセンスをARMから受けて自社のSoCの設計に組み込む。この提供形態にはSoft IPとHard IP、及びARMの場合はPoPもあるが、これのいずれかを選ぶ形になる。

 ちなみに支払はまずプロセッサーライセンスを取得する際にライセンス料を支払い、かつ実際にそのコアを組み込んだ製品を出荷する際にロイヤリティーを支払う。このライセンス料及びロイヤリティーの金額は契約によって当然変わってくる。

 ライセンス料は明示的に公開されていないが、大雑把に数千万~数億円で、最新の高機能なものほど高価になるといわれている。

 一方、ロイヤリティーの金額は、実はこっそり開示されている。下の画像はARMが投資家向けに公開した2013年第3四半期の報告の中から抜粋したものだ。なお、資料そのものはこちらで公開されている。

ARMが投資家向けに公開した2013年第3四半期の報告書より抜粋。ロイヤリティーに関しての記述が確認できる

 コア1個あたりの平均ロイヤリティーは2012年~2013年で大体4.9セント、つまり5円ほどである。ただしこれはあくまでコア1個あたりの価格である。ではクワッドコアなら5×4=20円かというと、話はもう少し複雑だ。  下の画像は、同じく2013年第3四半期の投資家向けの別資料から抜粋したものだが、ARMのロイヤリティーは製品価格の2%程度である。ただし、複数のコアを搭載した製品であれば、2つ目のIPからはある程度割引される。詳細はこちらに公開されている。

ARMのプロセッサーライセンスに関するロイヤリティーは製品価格の2%程度

 画像では、5ドルのチップと2.5ドルのチップそれぞれにARMのIPが入っている場合、それぞれ2%のロイヤリティーで、合計15セントとなる。

 一方、この2つをまとめて6ドルのチップを作った場合、ロイヤリティーは最初のコアが2%、2つ目は1%に割引されるため、合計では18セントとなる計算だ。

 このロイヤリティーの金額そのものも、GPUやインターコネクトなど、IPの種類によって当然変わってくる関係で一概には言えないが、フルにARMのIPで固めたSoCを作ったからといって、ロイヤリティーの金額はそう高くはないことがわかる。

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