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ソフトバンク「全社一丸」のビッグデータ分析

2013年05月28日 07時00分更新

文● 今村知子/アスキークラウド編集部

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データ分析から課題解決の実行まで、すべてを行う

 具体的には「満足度」の強弱を、販売店舗、ホームページ、コールセンターなど、顧客と同社とのいくつかの接点ごとに因数分解し、それぞれを構成するデータを掛け合わせたり、相関関係を導き出して施策を考え、実行したという。アクセスログ、各種リサーチのほか、何度か定性調査も行い、あらゆるデータを集めて数値化した。

 「毎日、その繰り返しです。データをもとにどうアクションするべきか案を出したら、そのアクションによってどれだけ満足度が上がるかの効果も提示し、すぐに意思決定してもらって、アクションに落とし込みます。データの分析だけではなく、最終的に決まったアクションの実行まですべて私たちが行っているんです」。

岩本氏

統計解析ツールSPSSを使いこなすデータサイエンティストとして働く岩本嘉子氏は、実はワーキングマザーでもあり、「ソフトバンクはママにとっても働きやすい会社」とのこと。


 ビッグデータについては現状、まだデータの分析段階から四苦八苦し、その後の活用にまで結びつけられないでいる企業が大半、という声も多い。そんななか、分析作業は当然の前提であり、アクションまで一気通貫で行うことが仕事、と言い切る高橋氏や岩本氏の仕事ぶりは、ビッグデータ活用の現場でよく聞く「せっかく分析しても意思決定・アクションに生かされない」苦労とは無縁だ。どうしてそこまでできるのか?

 「もともと、わが社は社員全員が数字が見れないと仕事にならない、というほど『データ・オリエンテッド』な会社。だから、社内の感覚としては何かするときにデータ分析するのは当たり前のことで、それをもとに意思決定する意識を全体が持っている。そういう意識を持つ点が、他の企業とは違うかもしれませんね」と高橋氏。

 データの裏付けとそれに基づいたロジックさえあれば、部署が異なっていても役職が下でも、とにかく話を聞き、納得すれば即実行となる。なかには、データ分析の結果のアクションとして、基幹システムから作り直したこともあるという。

 「料金表が見づらかったのを改善しようとしたら、最終的に社内の情報システム自体に手をつけなければ……ということになったんです。そのときは社内のあらゆる部署とやりとりして、本当に社内改革するくらいの大変さでした(笑)。でも、社内全体が『満足度』を上げるという目的に向かっているので、課題がちゃんと見えて、ロジックを理解してくれれば、スムーズに動いてくれるんです」。

 岩本氏の静かな口調からは、会社全体を動かすほどのプロジェクトを実行したという気負いはまったく感じられない。データ分析とその活用、というには大きすぎるレベルの仕事内容だが、そこまでやるのが当然という意識なのだ。

成果は当然。毎日課題を見つけ、改善をし続ける

 さらに、この部署ではウェブサイトだけではなく、Facebook、Twitter、LINEの3つのSNSでもビッグデータを活用している。それぞれの投稿内容に違いを付けることで、さらなる満足度の向上を図るためだ。Facebookは2012年3月に始めてまだ1年強だが、すでに82万のフォロワーを獲得し、LINEについてもUstreamでの会見告知に用いると視聴者全体の30%がLINE経由になるほど、短期間に活用の効果を上げている。

 そこまで目覚ましい成果を得ていながら、まだ満足はしていない。今後はフォロー数で、LINEとFacebookでは国内NO.1を、Twitterは業界NO.1を目指すという。

 「満足度1位になったからといって、仕事の手を緩めることはありません。むしろ、もっともっとと毎日課題を見つけ、常に目標が出てきて、やることは増えています」。高橋氏も岩本氏も口をそろえて、次の目標である「圧倒的1位」へと意欲を語る。

 こうした意識の高さは、ビッグデータを活用できる人=専門の知識や技術を使ってデータ分析をする人、というイメージとは無縁のものだ。孫社長による「やりましょう」のスピード経営とデータ重視のスピリットが社内に浸透しているソフトバンクでは、「誰でもデータサイエンティストになれますよ」という高橋氏の言葉通り、ビッグデータの活用も目的達成のための業務に過ぎないのかもしれない。

 しかし、「誰もがデータサイエンティストになれる」のはその独自の企業文化があるからこそ。他の企業が真似できないのは、実は技術やスキルの高さではなく、目的達成への貪欲な精神であり、それこそがビッグデータ活用においてもっとも大切なのだ。

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