
昨年5月にやった特集を引きづり、今もビッグデータの姿を追い続けている。夏にはNRI鈴木さんのインタビュー、秋口には博報堂プロダクツの大木さんの記事、そして、年末はリクルートテクノロジーズの西郷さんの講演レポート。こうして取材していくと、実はどんどんTECHのフィールドから遠のいていく。
「CMOが使う額が……」発言の意図とは?
オオタニは対外的にASCII.jpの「TECH」カテゴリは、「インフラを中心にしたニュースサイト」と説明している。実際、サブカテゴリとしても、サーバー・ストレージ、ネットワーク、セキュリティ、データセンターなどを用意しているが、最近このカテゴリに入りにくいネタが増えている。典型的なのが、いわゆる「ビッグデータ」だ。
ビッグデータは、ハードウェアからソフトウェア、データセンター、クラウドまで含めた総合芸術的なところがある。たとえば、Hadoopの分散処理の話や、オブジェクトストレージの話であれば、TECHに入れて問題ないのだろうが、テキストマイニングや統計学の話になると、ちょっと範囲外になる(というか、やや手に負えなくなる……)。そして本質的に重要なのが、データの中身だ。SNSの活用やリコメンデーションエンジンの話になると、営業やマーケティングの領域になってくる。中でも、特集でも取り上げたJR東日本ウォータービジネスだったり、クックパッドなどの一般企業のデータ解析事例などは面白い。「ビッグデータはビジネスにどんなインパクトを与えるのか?」 そんな話を追っていくと、ビッグデータはすでにTECHの領域から外れてしまうわけだ。
ビッグデータはAmazonのレコメンデーションエンジンのようなコマース向け施策、TwitterやFacebookなどからの評価を収集するSNS活用形、センサーデータを用いることで資源の効率化を目指す社会インフラ系など、さまざまな活用例が見られる。では、誰が利用するのか? いろんな人に話を聞くと、ビッグデータのユーザーとして一番しっくりするのは、やはりマーケティングの担当者だ。営業のように直接顧客やパートナーと会うわけでもなく、広報のように対応相手が決まっているわけではない。さまざまな部署を横断し、外部の会社とつきあって、データを集め、商品の販売に結びつけていくマーケティングの部隊こそ、ビッグデータの価値を活かせる部門に思える。これがまさにセールスフォースCEOの「CIOよりも、CMOが使う額のほうが多くなる時代がやってくる」発言の背景だろう。
ビッグでなくても、データ活用は飯のタネになる
私はマーケティングについてはまったく素人だが、潜在顧客を掘り起こし、仮説を立て、販売施策や商品企画を検証していくのにおいて、ビッグデータは強力なソリューションとなるはず。今後、解析が低コストが実現され、効果的なデータ分析のパターンが生まれてくれば、シュリンクしていく国内IT市場でビジネスの打率を上げる施策として認知されることになる。まあ、実際は部署間をまたいだ社内データ共有だけで、けっこう大変なはずなので、一朝一夕というわけにはいかないと思うのだが……。
今後、こうしたCMOをターゲットに、さまざまなところがビッグデータのビジネスに関わってくることになる。ITに長けたSIerやコンサルティングだけではなく、広告代理店や調査会社、その他、●●マーケティングのような名前がついている会社は、顧客のニーズにあったビッグデータ施策を求められていくはずだ。IT業界のバズワードとしてのビッグデータは喧伝されることも多いが、新しい価値を生み出すビジネスにつながる可能性を持っている。市場の拡大とデフレ化を諸刃の剣として持つクラウドに比べて、今までIT業界が手を付けなかった最後のフロンティアといえる。
先日は「ベテランだらけになってきたIT業界に対する一抹の不安」と題して、業界の先行きを憂えたが、これからのIT業界に足を踏み出す若い人たちには、今まで不毛の地だったデータ分野にチャレンジしてもらいたい。確かに一流のデータサイエンティストへの道のりは遠いが、顧客データからどのような価値が創出できるのか? どのようにシステムとマッチングさせればよいのか? などは、柔軟な考え方がないと難しい。今後、IT業界もビッグデータを、飯のタネとしてうまく活用していくよう、盛り上げていくべきだろう。

この連載の記事
-
第34回
ビジネス
ベテランだらけになってきたIT業界に対する一抹の不安 -
第33回
ソフトウェア・仮想化
ビッグデータの眼と口? NECのイベントで考えた端末の役割 -
第32回
ソフトウェア・仮想化
風通しを良くしすぎない日本型の情報共有ツールはどこに? -
第31回
サーバー・ストレージ
複雑怪奇な製品ポートフォリオはそろそろ止めませんか? -
第30回
クラウド
ファーストサーバショックを超えて業界が取り組むべきこと -
第29回
サーバー・ストレージ
サーバーベンダーがストレージベンダーに勝てない理由 -
第28回
ソフトウェア・仮想化
ビッグデータ特集の舞台裏とその読み方 -
第27回
ネットワーク
コンテンツプロバイダーとなった企業にネットワーク高速化を -
第26回
ソフトウェア・仮想化
新年会2012 CROSSで感じたジャパニーズエンジニアのいぶき -
第25回
ビジネス
ユーザーが満面の笑み!Google Appsの事例に学ぶこと - この連載の一覧へ