
5月上旬にアップしたTECH.ASCII.jp特集「百家争鳴!ビッグデータの価値を探る」は、2012年のキーワードである「ビッグデータ」の価値について、さまざまな識者の意見を聞いたものだ。遅ればせながら、特集企画の舞台裏を紹介していこう。
各氏の意見を浮き上がらせる形態はこうした生まれた
「百家争鳴(ひゃっかそうめい)」とは、いろんな立場の人が自由に意見を戦わせることを言う。今回の特集は、文字通りITベンダー、エンドユーザー、ベンチャー、統計学の専門家などビッグデータに関わる方々に話を聞き、最大公約数的にビッグデータの定義や価値などを浮き上がらせようという趣旨で作った。そのため、記事ごとのタイトルも「~が考えるビッグデータ」に統一した。
企画当初、特集のタイトルは「ビッグデータにまつわる疑問を解く」であった。内容もそのタイトルの通り、さまざまな人に話を聞き、「ビッグデータとはなにか」を解き明かすというものだった。
こういう体裁になったのは、まさに担当自体がビッグデータについて理解できなかったからだ。一般的にビッグデータというと、GoogleやAmazonのような事例が出てくるが、果たしてああいったデータ解析が一般企業で役になるのか? 既存のソリューションでは難しかったのか? 果たしてビジネスの役に立つ技術なのか? そもそもビッグデータとは巨大なのか? ビッグデータ関連の発表会を聞けば聞くほど疑問はつのる一方。この理解不能度は、クラウドの比ではなかったのだ。こうした謎のキーワードが出てきたとき、私は最初にアルバイトで入った「ASCII DOS/V ISSUE」の時代から、先輩やメーカーの方に正直に話を聞くことにしてきた。
そして、今回は特集のために用意した質問が以下の7つだ。
- ビッグデータって単に大きなデータなんですか?
- ビッグデータにHadoopは必要ですか?
- ビッグデータとクラウドの関係について教えてください
- ビッグデータをどのように解析するのですか?
- ビッグデータの活用事例を教えてください
- ビッグデータはビジネスに役立つんですか?
- ビッグデータの課題を教えてください
読んでいただくと分かるとおり、今回掲載した7本の記事うち半分くらいは、この質問への回答をベースに構成されている。しかし、取材を進めていくうちに、これらの質問への答えが各氏によって大きく異なってくるのがわかった。
たとえば、「ビッグデータって単に大きなデータなんですか?」という質問に対して、教科書的な答えは「Volume(量)だけではなく、Variety(種類)、Velocity(頻度)という3つのベクトルで捉える」になるのだが、このシンプルな質問でも各氏の見解は大きく異なる。EMCの仲田氏は「量や質でもなく、増えていく前提のデータ」、ノーチラスの神林氏は「当初はペタクラスだったのに小さくなってきた」と語る。取材を繰り返していくにつれ、これは画一的な意見にまとめるより、各氏の意見をそのまま併記した方が面白くなると考えた。特に、ビッグデータを「バズワード」と切り捨てる神林氏の意見は他氏の意見と比べることで、ビッグデータの理想と現実はくっきり浮かび上がる。こうしたことから、今回の特集体裁になったわけだ。
今後の鍵は「ビッグデータのクラウド化」
今回、特に大きい論点はノーチラスの神林氏が提起した「統計学的に見て、ビッグデータの全件解析は必要なのか」というビッグデータの存在意義に関わる部分だ。TECH.ASCII.jpとしては未曾有のツイート数を実現した同記事のインパクトはきわめて大きく、読者の関心も高かったようだ。これに関しては、アクセンチュアの工藤氏やオートノミーのマイク・リンチ氏も言及しており、ビッグデータの有効範囲を理解するにあたって有効な議論といえる。また、「ビジネスでの有効性」という点も、ぜひ意識して読んでもらいたい部分。JR東WBの笹川氏、日本IBMの中林氏、そしてマイニングブラウニーの得上氏が、まさにそれぞれの立場で意見を述べている。
一方、今回明確な答えが出なかったクラウドとビッグデータの関係だ。現状、ほとんどのビッグデータは、エンタープライズのオンプレミスソリューションとして提供されているが、ビッグデータの保管や利用をクラウド側で行なおうという流れは確実に来ている。5月に正式リリースされた「Google BigQuery」や、ビッグデータを活用したヤフーのオンライン広告分析ツール、さらには取材で出てきたマイニングブラウニーの「mitsubachi」も、この流れにある。
このビッグデータのクラウド化の流れは、企業が縮小する国内市場で売り上げを伸ばしたり、商流や市場動向の異なるグローバルでのマーケットを開拓するにあたって、きわめて有用と思われる。クラウドによって利用コストが大幅に下がり、ツールの利便性が大きく向上すると、JR東WBの事例のように現場の営業マンが仮説を検証するためにビッグデータを振り回せるようになる。現場対応力の高いと言われる日本のビジネスマンがExcelのピボットテーブルではなく、ビッグデータを手元から使えれば、「鬼に金棒」といえるのではないだろうか? こんな空想をしてしまうのも、まだビッグデータが「バズワード」だからなのかもしれない。今後も注力していく必要がある。

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