0.13μm SOIプロセスの歩留まりがあがらず苦しむ
AMDはこの時点では明言しなかったが、実は0.13μm SOIプロセスの立ち上げで予想以上に苦慮していた。Yield(歩留まり)もSpeed Yield(どの程度の周波数で動作するかの平均値)もかなり悪かったので、Bartonでは確実を期すために0.13μm SOIの利用を中止した。ただそうなると、Thoroughbredのままでは性能の底上げができないので、2次キャッシュ増量とFSBの高速化で対応したわけだ。
2003年に入ってからも、具体的なラウンチスケジュールは当初まったく聞かれなかった。2002年中にOEM向けにサンプル出荷された初期の「Revision A0」が、「1GHz程度でしか動作しない」という話はそれほど珍しいものではなかった。しかし2003年に入ってリリースされた「Revision B0」でも、2GHzはおろか1GHz台がやっとで、その割には消費電力が多いという話が聞かれるようになる。これではどこまで性能が出るのかと、疑問視されるようになったのがこの頃である。
最終的に「Revision B3」までステッピングを引き上げて、2003年4月22日にAMDは、まずOpteronを発表する(当時の発表記事)。ただしこの時発表されたのは、以下の3製品のみ。だった。
名称 | 周波数 | 価格 |
---|---|---|
Opteron 244 | 1.8GHz | 9万9250円 |
Opteron 242 | 1.6GHz | 8万6245円 |
Opteron 240 | 1.4GHz | 3万5375円 |
発表後には製品も市場に流れるようにはなったが、圧倒的に多いのはOpteron 240で、242とか244はそもそもほとんど流通していなかった。当時Revision B3のSpeed Yieldでは1.4GHzがやっとで、1.6GHzや1.8GHzは高速動作の選別品扱いになっており、これがそのまま価格に反映された。もちろんこんな速度では、デスクトップ向けとしてはPentium 4に及ぶわけがない。
AMDはその後も努力を続け、「Revision C0」でようやく安定して2GHz駆動のClawHammerを出荷できるようになった。これを同年9月23日に「Athlon 64 3200+」としてリリースする。ただRevision C0もあまりゆとりはなかったようで、2004年に投入された「Revision CG」でやっと、「0.13μm SOIで本来想定していた性能」が出たようだ。当初の計画からすると2年ほど遅れたことになる。
こうした遅れの原因は明白で、0.13μm SOIプロセスの立ち上がりが極端に悪かったのが理由である。2006年に同社の「Fab 36」が90nm SOIプロセスの立ち上がりを紹介した時の資料から、青線で示される「130nm SOI Technology Fab 30」の数字を見れば一目瞭然である。
Mature Yield、つまり「量産出荷を開始するに十分な歩留まり」を達成するまでの時間は0.13μmプロセスよりやや短いが、歩留まりそのものはずっと低かった。恐らく0.13μmプロセスを抜いた、ややぎざぎざの部分がRevision C0あたりで、そこから一度谷になるあたりがRevision CGに切り替えた部分と想像される。これだけプロセスが難航していれば、それは製品が出なくても不思議ではない。
ちなみにこの歩留まりの悪化について、2006年当時に同社のプロセッサー部門製造・技術担当上級副社長を務めていたダリル・オストランダー(Daryl Ostrander)氏に聞いたことがある。オストランダー氏はこれについて、「それまではモトローラ(のHiP7)をベースに製造していたのを、このタイミングでIBM(のCMOS9Sベース)に切り替えた。これは予想以上に困難で、当初の予定よりも長く2年8ヵ月も要した。今から思えばなかなか無茶だったね」と説明した。要するに、当時はここまで切り替えに時間がかかるとは思わなかった、という見通しの甘さがこの遅延の最大の要因だろう。
この遅延によって立ち上がりでもたついたにも関わらず、2004年に投入されたインテルのPrescottが自滅してくれたお陰で(連載118回参照)、Athlon 64やOpteronはそれなりのマーケットシェアを握り、K10コアまで好調に推移することになる。だがもしここで立ち上がりに失敗しなければ、もっと早期にマーケットシェアを握ることが可能だったろうし、AMDの資金繰りもずっと楽になっていただろう。
アーキテクチャーそのものには問題がなかったのは、これに続くK8系列製品が低消費電力・高性能のプロセッサーとして記憶されていることからもよくわかる。とはいえ、0.13μmのバルクCMOSプロセスで製造したCPUが2GHz超えで動いているときに、「30%高速に動作する」はずのSOIプロセスが1.4GHzあたりで苦労しているというのは、明らかにおかしい。やはり、アーキテクチャーの変更とプロセスの変更を同時にやったのが、黒歴史入りの理由ではないかと思う。
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