今回からはAMDのプロセッサーについて解説していこう。まずはデスクトップ向けからだが、インテルのそれに負けず劣らずラインナップが複雑怪奇なため、まずは基礎知識として、製品ラインナップの説明から入りたい。
130nm SOIの出だしでつまづいたAthlon 64
上の図は、AMDの「K8」(Athlon 64)以降の製品ブランドをまとめたものだ。「K8アーキテクチャー」として知られるこのシリーズだが、当初は立ち上がりにずいぶん苦労した。その大きな理由は、やはり130nm SOI製造プロセスにあったようだ。
というのも、当初こそ「順調」「予定どおり」とAMD幹部は連呼していたものの、2006年当時、製造技術担当バイスプレジデントのダリル・オストランダー氏(Daryl Ostrander、現在はMotorolaの電子部品部門がスピンアウトする形で設立されたOn Semiconductor社取締役)が来日した時には、下の図のようなプレゼンテーションを示していた。
縦軸は歩留まり(生産した中でどの程度が良品か)の比率で、横軸が時間軸である。このプレゼンテーションは本来、当時AMDが操業を開始した工場「Fab36」の立ち上がりがいかに良好かをしめしたものだが、それよりもFab30における130nm SOIの歩留まり(青線)が、いかに酷かったかがむしろ目立つ結果となっている。
実際、K8はデスクトップ向けの出荷は2003年9月だが、これに先立つ2003年3月には、Opteronの出荷が開始されていた。ただし当時のOpteronは、動作周波数が1.4GHzときわめて低いもののみが潤沢に供給され、それよりちょっと周波数の高いものは、かなり高値とされていた(例えば、2003年6月17日における価格は1.4GHzが283ドルに対して、1.6GHzが690ドル、1.8GHzが794ドル)。
要するにYield(イールド、歩留まりそのもの)は多少改善したものの、Speed Yield(どの程度の周波数で動作するかの平均値)が1.4GHz程度でしかなく、これより少しでも上で動くCPUをほとんど製造できない状況だったわけだ。しかし、半年掛けて何とか130nm SOIでも“そこそこ”のSpeed Yieldまで改善したことで、当時の対抗製品であるPentium 4に比肩しうる2GHzオーバーの動作周波数を確保することに成功したようだ。
だが、まだ問題があった。当時デスクトップ向けCPUはDDRメモリー1チャンネルの「Socket 754」を想定していたが、これでは(当時の)インテルの新製品(Prescottコアの90nmプロセスPentium 4)に性能面で及ばない可能性があった。AMDは続いてDDRメモリーを2チャンネル搭載する「Socket 939」の製品を開発していたが、何しろ130nm SOIプロセスの遅れなどもあって、当初からこれを投入することはできなかった、そこで、Socket 939を投入するまでのつなぎとして、2003年9月にOpteronをそのまま「Athlon 64 FX」という名称で投入することを決定する。
ただし、インテルも直ちに、Xeon MP向けに製造していた3次キャッシュを搭載するPentium 4コアを「Pentium 4 Extreme Edition」として投入。結果としてデスクトップCPUに、「エンスージャスト向け」なる新しいハイエンドカテゴリーが成立してしまった。ちなみに、その後このAthlon 64 FXもSocket 939のものが投入され、ここでやっとOpteronと“一旦は”縁が切れる。
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