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仕事と生き方を変える、著名人の意見 第2回

もし若者が考古学者になりたいと思ったら

考古学はマネジメント学だ! スタンダードを掴み、真実を追及する

2011年09月26日 09時00分更新

文● 吉村作治

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考古学は総合学

 考古学は総合学です。学問のゼネコンみたいな分野で、何をやるにも全体の計画から報告書の取りまとめまで、マネジメントも多岐にわたっています。そして、フィールドワークが欠かせませんので、チームワークを保たねばなりません。そして病人やけが人、死人を出してしまえば元も子もなくなってしまいます。かなり潜在的にリスクの高い研究分野です。

発掘現場での著者 ダハシュール北遺跡にて

 健康管理にどうしても欠かせないのは衛生管理と、快適に寝る環境を作ること、そして食生活です。人間は動物の一種ですから、自分でエネルギーを合成できません。体内の小さな発電所を動かすための燃料は食べ物です。好き嫌いの多かった私に、「何でも食べなければ死ぬ」と子供の頃、母は言いました。毎日こう言われていますと、聞くのが面倒で食べるようになり、今ではゲテモノ以外何でも食べられます。それも母のおかげと感謝しています。

 それと、「自分で食べるものは自分で作りなさい」と母は言っていました。母の料理の腕は相当なもので、休日は私に教えてくれたのです。「煮物が出来りゃ何でもできるのよ」が母の口ぐせで、肉じゃがをはじめ芋の煮っ転がし、揚げとほうれん草の煮びたしなどいろいろ教えてくれたので、今、私は世界中のどんな料理でも一度食べれば作れます。グルメ志向ではなく、健康食志向です。

 ですから私は若い隊員に料理を義務付けたのです。現在はエジプト人コックを訓練して作ってもらっていますが、それでも休日の金曜日には当番を決めて作ってもらっています。それと料理は自分の身体のためもありますが、考古学者にとって最も重要なことなんです。

発掘現場での著者 アブ・シール南遺跡にて

 というのは、考古学的発掘で一番多く出土するのは、食器類などの生活雑器なんです。ですから料理をはじめ生活をきちんとやっていませんと、出土したモノが何であるか、どういう使い道をしていたのか推理が出来ないのです。考古学は生活科学ですから、科学的に生活していない人は考古学者として失格なのです。

スタンダード(標準)を掴み、真実を追及する

 考古学をする者は、生活をきちんとできる必要があるということを述べましたが、何故かと思う人もいると思います。「学問は生活を犠牲にしてやるものだ」という古い考えの人はそうでしょう。しかし、昔の人間が何を考え、何をしてきたかを考える分野の考古学ではまず、基礎データが必要です。データなくしては、分析も解析もできません。ましてや何を考え、何をしたか、また、その行いの理由といった、空気のように何も見えない事を解釈することはできません。

 生活は日常であまり動きはないと考える人は少なくありません。退屈で平凡です。そんなことを調べ、考え、歴史が分かるのかという人がいます。それは誤った考え方です。日常的で平凡なことを知らないと、非日常的、非凡なことは分かりません。すなわちスタンダード(標準)をまず掴んでおかないと、歴史的事件の原因を追及するときに、真実から遠ざかってしまうのです。推理小説でも、刑事の捜査でもそうですね。

 ちょっとした非日常的なことを見つけて初めて、事件解明の突破口が開けるのです。ですから考古学においては、特に遺跡発掘においては、目玉になる黄金製品や宝飾品よりも、日常的に使われていた品々をどれだけ多く発見するかが、その発掘の良し悪しを決めるのです。

【筆者プロフィール】吉村 作治

 10歳の時に読んだ、『ツタンカーメン王のひみつ』に魅せられ、エジプト考古学者となる。現在は早稲田大学名誉教授、工学博士(早大)。1964年に早稲田大学入学後、カイロ大学考古学研究所留学。念願のエジプト発掘を始め、早稲田大学人間科学部、国際教養学部教授を経て、日本初の完全インターネット大学、サイバー大学を創設し初代学長を務めた。現在、毎月エジプトに出かけ、その合間に執筆活動、講演、テレビ出演、お祭り参加等、日本中を飛び回っている。

 「ビジスパ」にてメルマガ「吉村作治の週刊e-パピルス - エジプト考古学者のマネジメント学 -」を執筆中。

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