※この記事は子安大輔氏のメールマガジン「「食」から読み解くマーケティング」(「ビジスパ」にて配信中)から選んだコンテンツを編集しお届けしています。
昨年から今年にかけて、クラフトビールの店が増えている。「地ビール」としても親しまれ、ビール好きには魅力的なクラフトビールは流行るのか?子安大輔氏が、歴史的な経緯を追い、今後を読む。
最近よく、「クラフトビールは流行しますか」という内容の質問を受けます。
クラフトビールという言葉は聞きなれない人もいるかもしれませんが、日本では以前から「地ビール」という名で存在しています。国内では1994年までいわゆる大手4社以外にはほとんどビールを製造していませんでした。しかし、その年に酒税法が改正されて、メーカーの最低醸造量のノルマが大幅に引き下げられたのです。これによって、小さな資本の醸造所が日本のあちこちに誕生しました。この頃に生まれた「銀河高原ビール」という名を知っている人も多いかもしれません。
しかし、そのブームは長くは続きませんでした。飲食店からすると繊細ゆえに商品管理が難しかったり、小売店にとっては回転が悪かったりして、なかなか扱いにくい商材でした。そして何より価格が高いことから、結局はその価値をお客が十分に感じることがないままに、多くの地ビールメーカーは淘汰されてしまったのです。
都心では繁盛するクラフトビールの店
けれども、この数年そんなクラフトビールを見直す動きがじわじわと出てきています。都心ではクラフトビールを打ち出したいくつかの店舗が繁盛しており、その可能性は感じられます。フードスタジアムという飲食情報サイトを主宰する佐藤こうぞう氏は2011年末に、『2012年は「クラフトビール革命元年」! 』という見出しのもと、『ワインブームの影に隠れてあまり目立たないが、「クラフトビール」の業態も進化しながら成長し、大きな盛り上がりを見せ始めている。2012年は一気に専門店が増えそうな予感だ。』と書いています。
一方で佐藤氏と犬猿の中である、エムグラントフードサービスの井戸実氏は、ツイッターでこんな書き込みをしています。『クラフトビール?来ねーよバーカ。やってみろそんな店。ぜってーはやんねーから』。佐藤氏がクラフトビールセミナーなどを開催して、しきりにそのトレンドを作ろうとすることに対するネガティブなコメントです。
ワインのようなトレンドには至らない最大の理由
私はと言うと、「しっかりした想いと戦略のある店は繁盛する」という見通しを持っています。まずクラフトビール自体は、私のようなビール好きからすれば確かに魅力的です。そして、これまでビールのおいしさをそれほど意識してこなかった人にとっては「こんなビールもあるんだ!」という新鮮な発見に繋がるかもしれません。
ビールに対する十分な知識と想いがあり、品質管理にも気をつかえる店には確かに追い風が吹いているのを感じます。また、あちこちのビールを仕入れるだけの店ではなく、クラフトビールメーカーの直営飲食店のような位置づけもこれからは面白いのではないかと思います。
しかしワインのような大きなトレンドには至らないはずです。その最大の理由は何と言っても価格です。普通に1杯分飲もうと思えば、安くても700円台、ちょっと高いと1,000円を越えてしまうこともあるのですから、何杯もお代わりというわけにはいかないでしょう。確かにワインもグラスで飲めばそれくらいする店も多いですが、ワインと違ってビールの場合はボトルで頼んで安く済ませるという技も使えません。ですから、どうしてもユーザーの裾野の広がりには限界があるのです。
この数年続いたカジュアルワインブームはさすがに沈静化することでしょう。そして中には、「ワインの次はクラフトビールだ」というだけの理由で参入してくる店も出てくるはずです。しかし、それらの店は、思いのほか客足が伸びないという事態にすぐに遭遇するのではないかと予想しています。
一人のビールファンとしては、クラフトビールが普及して、おいしいビールが飲めるシーンが増えることは大歓迎です。しかし、ビジネスとして考えると、真っ当な少数の店しか生き残れないというなかなか厳しいマーケットではないかと考えています。大手メーカーのビールにすっかり慣れ親しんでいて、しかもそれに満足している多くの日本人が、こだわりのクラフトビールにそこまで大きな価値を見出すとは思えないのです。皆さんも、クラフトビール業界の推移、ぜひウォッチしてみてください。
【筆者プロフィール】子安 大輔

1976年生まれ。東京大学経済学部を卒業後、株式会社博報堂に入社。マーケティングセクションにて、食品や飲料、金融などの分野の戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、共同で㈱カゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』(ともに新潮新書)。レストランビジネスを教える学校「スクーリング・パッド」主宰。ビジスパではメルマガ「「食」から読み解くマーケティング」を執筆中

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