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在宅勤務で失敗しない方法 第4回

ワークスタイルを広げる効果もあり!

在宅勤務にはセキュリティ面も優れたシンクライアントを

2011年09月05日 06時00分更新

文● 伊藤玄蕃

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在宅勤務制度の導入に伴って、端末に情報を保持しないシンクライアントを導入するケースが増えている。シンクライアントは、HDDや光学ドライブなどデータを保存するためのデバイスを持たない点で情報セキュリティのメリットがあることが知られている。さらに、シンクライアントはネットワーク技術の進化に伴って、在宅勤務以外の多様なワークスタイルに活用されるようになった。

シンクライアントでオフィス環境を持ち出す

 在宅勤務制度を導入すると、職場と同様に共有データや業務アプリケーションにアクセスできる環境が、社員の自宅にも必要となる。企業の一般的なコンピューティング環境では、OSやアプリケーションは、PCの内蔵HDDにインストールされ、PCのCPUやメモリ上で実行される。データは、PCの内蔵HDDや、ネットワーク経由で共有ファイルサーバーへ保存される。それでは、在宅勤務のコンピューティング環境はどうすべきだろうか。ここでは、在宅勤務に代表される、テレワークあるいはモバイルワークの代表的なコンピューティング環境を紹介し、メリット・デメリットを比較してみよう。

オフライン環境

 在宅で業務を遂行するために必要なデータを、会社で使っているノートPCやUSBメモリなどに格納して、自宅に持ち帰って作業するというのがオフライン環境である。「ネットワークインフラなど特別な仕組みが不要でコストが安い」「データのアクセスが速い」というのがメリットだが、「情報漏えいのリスクが高い」「ファイルサーバーに保管されたデータにリアルタイムでアクセスできない」「職場のサーバーにアクセスできないのでC/S型やWeb型の業務アプリケーションを利用できない」といったデメリットがある。

オンライン環境

 これは、会社で使っているノートPCを自宅に持ち帰ったり、社員の私有PCを在宅勤務で利用するが、第2回で説明したリモートアクセスのインフラを使って、社内ネットワークにアクセスできるようにした環境である。自宅から職場のサーバーにアクセスできるので、「ファイルサーバーに保管された共有データをリアルタイムで参照できる」「業務アプリケーションを利用できる」といったメリットがある。

 ただし、会社の外にデータを持ち出すことになるので、オフライン環境と同様に、情報漏えいのリスクは依然として高い。また、リモートアクセスのネットワーク帯域が狭い(遅い)と、大容量のデータのアクセスに時間がかかり、業務効率が低下する。

シンクライアント環境

 業務データを格納できないシンクライアント端末を自宅に設置して、リモートアクセスのインフラを使って、職場の共有データや業務アプリケーションにアクセスできる環境である。シンクライアント端末には、職場の机上のクライアントPC(自席PC)またはサーバーの画面イメージだけが送信され、業務データを会社の外に持ち出すことはない(図1)。

図1 シンクライアントの利用イメージ(日立ビジネスソリューションの広報資料より)

 シンクライアント環境では、「ファイルサーバーに保管された共有データをリアルタイムで参照できる」「業務アプリケーションを利用できる」といったオンライン環境のメリットはそのままだ。加えて、「情報漏えいのリスクが少ない」のが大きなメリットだ。

 シンクライアントに転送されるのは画面イメージだけなので、大容量のデータをアクセスする場合に、リモートアクセスのネットワークが遅くてもオンライン環境ほどにはストレスを感じさせない。ただし、「ここで挙げた3つの環境の中でもっとも費用がかかる」「ネットワークが不通になった場合はデータにいっさいアクセスができないため、コンピューティングを伴う業務はいっさいできない」といったデメリットがある。

 これら3つの環境のうち、もっとも安心かつ生産性が高い在宅勤務を実現するのは、シンクライアント環境である。特に、個人情報や営業機密情報を保護するため、ノートPCの持ち出しやUSBメモリの使用を禁止している企業では、シンクライアントしか選択肢がないだろう。日本のようにブロードバンドインターネットが発達し、ネットワーク網の信頼性も高い地域では、デメリットはほぼ費用面だけだ。

 なお、費用面のデメリットを小さくするため、すでに保有しているPC(社有または私有PC)をシンクライアント化するツールも市販されている。大半の製品は、専用ソフトウェアを収用したUSBキーの形態で、これをPCに挿入して起動すると専用のOSが立ち上がり、内蔵HDDや光学ドライブ、さらには外部記憶装置の類がまったく使用できないシンクライアント端末になる、というものだ。

シンクライアントの優位性

 前述の通りシンクライアントの大きなメリットは、端末に業務データを残さないため情報漏えいのリスクが低いことだが、それ以外にも次のようなメリットがある(図2)。

図2 シンクライアントの優位性(NECのWebサイトより抜粋)

セキュリティ対策の集約

 在宅勤務で用いられるシンクライアントのシステムは、「自席PCの画面を転送する方式」と、「サーバーの画面を転送する方式」の2つがある。

 このうち、後者のサーバーの画面を転送する方式では、OSやアプリケーションへのセキュリティパッチの適用、ウイルス対策ソフトやスパイウェア対策ソフトなどのインストールなどの作業は、データセンターなどで管理者が一括して行なえる。このため、セキュリティ対策にかかる時間や手間を集約できる方式といえる。

 また、前者の自席PCの画面を転送する方式であっても、セキュリティ対策の作業対象は職場に固定されたPCである。そこで、クライアント管理ツールやインテル社の「インテル vProテクノロジー」などの機能を使えば、バージョンアップ作業やパッチ適用作業を自動化することが可能になり、管理者の手間も軽減できる。逆に、シンクライアント以外の在宅勤務のコンピューティング環境では、社員の自宅にある社有または私有PCに対して同様の作業を行なわねばならず、運用管理コストも増えるし、パッチの適用もれなどが生じる可能性も大きい。

端末の共用化

 従来のコンピューティング環境では、社員ごとに個人用のPCが1対1で割り当てられ、業務は自分のPCで行なうのが当たり前だった。しかし、データをサーバーに格納したシンクライアント環境では、どの端末を操作しても、直前のコンピューティング作業を再開できるし、必要なデータにアクセスできる。このため、個人用PCを割り当てる必要がなく、遊休PCを減らせる。

端末の信頼性向上

 シンクライアント端末には、HDDや光学ドライブなどデータを保存するためのデバイスが必要ない。これらのデバイスは高速回転するパーツを持つため、ほかの電子部品に比べて経年劣化が起こりやすく故障しやすい。つまり、シンクライアントのハードウェアは、通常のPCと比べて信頼性が高くなる。

シンクライアントで変わるワークスタイル

 先ほど、「ネットワークが不通になった場合はデータにいっさいアクセスができないため、コンピューティングを伴う業務はいっさいできない」とシンクライアントのデメリットを説明した。しかしこれは、ネットワークがつながっていれば、どこからでも社内システムにアクセスできるともいえる。

 社外に出る際にノート型シンクライアント端末を所持すれば、自席のPCやサーバーに格納した重要情報なども、移動中や外出先からリモートアクセスにより利用できる。客先で商談中に在庫確認や見積りが必要になった際にも、その場から社内ネットワークにあるデータを参照可能だ。これらは、3G携帯データ通信サービスやWiMAXなど高速無線通信サービスとシンクライアント端末の組み合わせで実現した、新しいワークスタイルだといえる。

 また、外出先だけでなく、オフィスでも新しいワークスタイルが出てきた。従来は有線LANで接続された個人用のPCが個人用のデスクに1対1で割り当てられ、基本的には自分のデスクにて業務を行なうのが当たり前であった。しかし、シンクライアント環境と無線LANによって、どのデスクでも、そしてどの端末でも、業務の遂行が可能になった。

 そこで、外出者が多い営業部門などで、個人用の机を廃止して、フリーアドレス・フリーデスクを採用するケースが増えている。所属員全員分のデスクを設置することをやめて、フロアスペースを削減し、オフィスコストを節減したり、空いたスペースを会議・打ち合わせスペースに転用してコミュニケーションの活性化を図ることも行なわれている。

 また、会議室にシンクライアントを設置すれば、会議の都度、ノートパソコンを持ち込む必要はなくなる。空いた席にシンクライアントを設置すれば、出張者用の共用デスクになる。さらに、大規模なビル建築工事現場などに設置する臨時オフィス、グループ企業で共用するサテライト(衛星)オフィスといった、社員のための作業場所も、迅速かつ容易に設置できるようになる。

 このように、シンクライアントシステムを導入することで、在宅勤務だけでなく、多様なワークスタイルが実現できる。シンクライアントはテレワーク(遠隔地での業務遂行)に現在もっとも適したシステムであり、在宅勤務もまたテレワークの形態の1つなのだ。そして、ネットワーク技術の進歩、特に新しい無線通信サービスが次々と登場することで、新しいテレワークの形態が生まれ、シンクライアントの適用範囲も広がっている(図3)。

図3 シンクライアントで変わるワークスタイル(NECのWebサイトより抜粋)

初出時、図2と図3の出典の記載が欠けておりました。お詫びし、訂正させていただきます。本文は修正済みです。(2011年9月12日)

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