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在宅勤務で失敗しない方法 第3回

ユニファイドコミュニケーション、コラボレーションツールを活用しよう

在宅勤務で失われるコミュニケーションをITで補う方法

2011年08月31日 09時00分更新

文● 伊藤玄蕃

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在宅勤務では上司や同僚、顧客との「顔をつき合わせる」コミュニケーションが少なくなるので、それを補う仕組みが必要だ。具体的には、職場にかかってくる電話やFAXを自宅に転送するメッセージングのツール、離れた拠点で働く同僚たちとの協働作業を支援するコラボレーションのツール、チーム全体の業務進捗の状況をプロジェクトマネジメントのツールが必需品となる。

在宅勤務者と会社を結ぶメッセージング

 「メッセージ」とは、電話・FAX・電子メールなどの通信手段を用いてやり取りされる情報のことで、メッセージの発信・受信・中継などの処理を「メッセージング」という。

 在宅勤務を導入する際にメッセージングへの配慮が欠けていると、在宅勤務する本人だけでなく、その同僚や顧客にまで迷惑がかかる。たとえば、顧客から在宅勤務者あての電話が職場にかかってきたら、どうなるだろうか。

 顧客に在宅勤務者の自宅や携帯電話にかけ直してもらうのは失礼だ。一般的には、同僚が顧客の用件を聞き、在宅勤務者に連絡する。必要があれば、さらに在宅勤務者から顧客に電話してもらう、といった処理になる。同僚は手間を取られるし、顧客も用件が正確に伝わったか不安になるし、かけ直してもらう場合は時間をロスする。会社全体では、オフィスワークの生産性が悪化し、顧客満足度も下がってしまう。

 そこで登場するのが、ユニファイドメッセージング(Unified Messaging:UM)あるいはユニファイドコミュニケーション(Unified Communication:UC)と呼ばれる手法やツールだ(ここではUCに統一する)。UCは電話・FAX・メールなどの複数のメッセージング手段を統合(unify)した、高機能で効率的なコミュニケーションを意味する。

 UCを導入することで、顧客から在宅勤務者あての電話が職場にかかってきても、

  • 在宅勤務者の携帯電話へ転送する
  • 顧客に用件を録音してもらってボイスメールとして在宅勤務者のモバイルPCやスマートフォンに転送する

といった処理が可能になる。メッセージの中継に同僚の手を煩わせることもないし、顧客のメッセージがより確実・迅速に伝達されるので、顧客の不安感も軽減される。会社全体として業務効率を高める・顧客満足度を向上するといった効果をもたらすだろう。

 UCは音声通話だけでなく、FAXの送受信においても有用だ。職場に着信したFAXを自動的にサーバーの共有フォルダに収容することや、画像データ化してメールに添付して在宅勤務者に転送するといった処理が可能になる。さらにFAX-OCRと組み合わせれば、受発注データまで作成して在宅勤務者の携帯電話にショートメッセージを飛ばす、といった処理も可能になる。

 このように、UCを導入することで在宅勤務に伴う無駄なメッセージングを減らし、会社全体としての業務効率を高めることができる。UCは、多彩なコミュニケーション手段を、業務プロセスやユーザーのいる場所や状況に応じて自在に使い分けることを可能にするので、在宅勤務だけでなく、モバイルワーカーなど、オフィスのデスクに固定されないワークスタイルを取り入れる際には、必需品となっている。

 UCは、シスコシステムズやNEC・富士通などIP電話システム(IP-PBXやVoIP製品)のベンダーからさまざまな製品・ソリューションがリリースされている。マイクロソフトも、“Microsoft Lync Server 2010”を中核として、電話機などの専用ハードウェアに依存しない、PC+ソフトウェアベースのUCに取り組んでいる(図1)。

図1 Microsoft Lync Serverを中核とするUCの利用イメージ(日本ユニシスの広報資料より)

共同作業を円滑にするコラボレーション

 一般に「コラボレーション」は共同・協働作業を意味するが、IT(情報技術)業界では特に「コンピュータシステムを活用して多人数で共同作業を進めること」を指す。在宅勤務を取り入れると、社員全員がオフィスに集まる機会が減るため、ネットワークを経由した意思の疎通が重要な要素となる。「コラボレーション」という言葉のもともとの意味は非常に広範で、ITを利用したコラボレーションの対象範囲を意味する場合も、世界規模の大プロジェクトから企業の特定部署やSOHOレベルの簡単な共同作業までと広大な範囲になる。

 ネットワークを経由したもっとも古典的なコラボレーションのツールは、ファイルサーバーによるデータ共有システムである。企業内で共有されるデータには、Microsoft Officeに代表されるオフィスアプリケーションの文書データが多いことから、マイクロソフトは「SharePoint Server」により企業のコラボレーション市場に乗り出した。SharePoint Serverのロードマップを見ると、キーワードは「共有化」からはじまって、「可視化」、「生産性向上」、「標準化/最適化」へと進化している(図2)。これらのキーワードは、コラボレーションにより企業が目指すべきものを指している。

図2 SharePoint Serverの変遷と主要機能の拡張イメージ(日本ユニシスの広報資料より)

 また、非定型のアイデアを共有し発展させていくツールとして、メーリングリスト、社内掲示板、社内ブログ、社内wikiなどのシステムが利用されている。電子メールやグループウェアも、その意味では有力なコラボレーションのツールになる。最近では、社内外を結ぶコラボレーションツールとして、FacebookやmixiなどのSNS(ソーシャルネットサービス)やtwitterなどのマイクロブログを利用する企業も出てきた。情報漏えい防止のため、社内ネットワークからのインターネットアクセスを厳しく制限している企業でも、企画・開発部門など外部モニターを使う機会のあるセクションから徐々に取り入れられているようだ。

 ここまで説明してきたコラボレーションのツールは、リアルタイムのレスポンスがあまり必要とされない作業に向いている。メッセージングでいえば、電子メールの延長線にあるツールといえる。一方、電話のようにリアルタイム性が要求される作業に向いたツールは、メッセージングではWeb会議システムとなる。Web会議システムは、いわゆる「遠隔会議(テレカンファレンス)システム」の一種で、次のような利便性を実現するものを指す。

  1. PCを端末として映像や音声で会議を行なうクライアントーサーバー型のシステム
  2. あるPC端末のデータやアプリケーションを別のPC端末で共有できるシステム

 Web会議システムは、多数の拠点を結んで遠隔会議を行なうためのツールであるが、単に音声と画像を共有するだけのシステムではない。Web会議システムにはアプリケーション共有機能があり、これが在宅勤務には非常に有用なのである(図3)。

図3 Web会議システムではアプリケーションの共有も行なえる

 たとえば、CADのオペレーターが在宅勤務する場合を想定してみよう。Web会議システムでは、会社のPCにマスタープランが保管されていても、在宅勤務のオペレーターが、順にWeb会議システムの中で、会社のPCを遠隔操作することが可能である。この時、すべての会議参加者のPCの画面上に、マスタープランの画面が投影される。これを繰り返していけば、会議が終わった時点で、会議の全参加者の意見が反映された図面が会社のPCの中で完成する。このように、情報が参加者の間でリアルタイムに共有され、リアルタイムで修正されていくのだ。

 Web会議システムは、サーバーを自社内に設置する形態(自社保有)と、サービス事業者がインターネットに設置したサーバーを利用する形態(SaaS/ASP)の2つの利用方法がある。たとえば、ブイキューブのWeb会議システム「V-CUBE」は、自社保有方式とASP方式の両方に対応する。一方、沖電気の「Visual Nexus」は自社保有方式だけで、シスコシステムズの「WebEx」はASP方式だけである。

マネジメントツールで勤務状況や進捗状況を確認

 第1回で、「在宅勤務に向いているのは、1人で完結して、特殊な設備を必要としない仕事だ」と説明したが、会社という組織で働く以上、「完全に1人で完結する仕事」ばかりをする人はいない。むしろ、「1人で完結する仕事」のように見えるのは、多人数で協調してやる大きな仕事のうち、1人で十分にこなせる部分にすぎない。だから、在宅勤務者の業務の進捗状況や業務の成果物の品質は、上司やプロジェクトマネージャー、あるいは後工程を担当する同僚などが適宜チェックする必要がある。在宅勤務者の勝手な判断に任せることは、組織としては絶対にできないし、してはならないのである。

 少なくとも、在宅勤務者がいつ出社して、いつ在宅勤務するのか、といった勤務状況を同僚や上司が把握するためのスケジュール管理のツールは必要だろう。これはグループウェアのスケジュール管理機能を使って、在宅勤務者もそうでない者も含めてチーム全員のスケジュールを共有できるようにしておくとよい。

 その上で、業務の進捗状況や成果物のチェックのためのツールを、業務に合わせて選択する。成果物をチェックするだけなら、部門共有のファイルサーバーの個人名のフォルダーに入れておく、という簡便な方法でも十分だろう。また、進捗状況を厳密に管理するなら、業種・業務に沿ったのワークフローシステムを構築・導入する手もある。

在宅勤務に適したクラウドのサービス

 今回紹介したツールは、社内ネットワーク上の自社保有ハードウェアに構築することが多かった。UCであればIP-PBXやVoIP/SIPサーバーとPCサーバーを社内ネットワーク内に配置して連動させる、コラボレーションやグループウェアも社内ネットワーク内に配置されたPCサーバーにソフトウェアを導入する、といった具合だ。

 しかし、在宅勤務者が増えてくると、サーバーを社内ネットワークに配置するよりも、むしろ社外に配置したほうが都合がよいケースも出てくる。社内からアクセスするユーザーより、社外からアクセスするユーザーが多くなれば、ASPやSaaS、あるいはクラウドのサービスを利用したほうがネットワークの使用効率は優れている。

 クラウドのサービスを積極的に利用することにより、企業のITを在宅勤務に適合させやすくなる。たとえば、オフィスアプリケーションのデータを中心とするコラボレーションのツールが必要な場合、社内からのユーザーが多ければSharePoint Serverを導入すればよいが、在宅勤務者やモバイルワーカーなど社外からのユーザーが多いようであれば、Google Docs / Google Appsを利用したほうが便利な場合がある。しかも、サーバーを自社保有するよりも、クラウドのサービスのほうが導入や運用の手間は圧倒的に少なくて済む。

 かつては自社保有するサーバーでしか利用できなかったグループウェアや業務アプリが、この2、3年の間に続々とクラウドのサービスとして提供されるようになった。在宅勤務に代表されるワークスタイルの多様化とクラウドサービスの成長は、車の両輪となって、企業のITを変えていくだろう。

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