「348人の女工さんに仕事の話を聞いてみました」販売の真意
―― では、「348人の女工さんに仕事の話を聞いてみました」についてお聞きします。内容とともに販売手段のユニークさが話題になっていますが、内容と販売戦略はどちらが先に立っていたんですか?
コトリコ 先に本……文章ができて、「これはたくさんの人に読んでほしい」と思ったんですよ。だから内容先行ですね。
僕は昔の本を読むのが好きで、昔の警察が発行した労働環境のパンフレットみたいなものを昨年末に読んでたんですよね。男女の労働者に労働環境について聞き込んでいるんですが、その中の女工さんの話が無茶苦茶面白かったんですよ。
男はカッコつけた回答ばかりでつまらないんですけど、女の人は「お腹が減った」や「給料上げろ」みたいなことをものすごくストレートに話していて、もうすごく魅力的で。それで女工さんの部分だけ集めて本にしたいと思ったんです。
―― すると最初は出版社に持っていくということも考えたりしたわけですか。
コトリコ それはないですね。2月くらいに世に出すつもりだったので、スケジュール的にも難しいでしょうし、(出版社としては)売れなかったらダメだろうという思いもありましたから。
とはいえ、ブログで公開するだけでは誰にも注目されない可能性が高いですし、キャッシュバック(利益)も期待できないわけです。また、個人で電子書籍を販売して儲けたりヒットさせたりする仕組みも、なかなかないんですよね。
それで、参加費が9000円と安かったアマゾンの「e託販売サービス」を利用したわけです。本来は電子書籍は取り扱ってないサービスですが、「コンテンツをダウンロードできるURLを書いた段ボール」という「文具」を売ることはできるんです。電子書籍はあくまでもオマケで、美麗なイラスト付きの段ボールを売りますというスタンスで。
―― そこがユニークですね。ただ、それでも多くの人に読んでもらうには、たくさん売る必要がありますよね。それにはどんな手を?
コトリコ 実はURLでダウンロードしてもらうとき、セキュリティみたいなものは何もかけていないんですよ。だから、段ボールを購入した誰かがURLを公開したら、誰でもダウンロードできちゃう状態になるわけです。
それでどうなるかというと、無料でダウンロードする人がたくさん出てくるかもしれません。そのときコンテンツを読んでくれる人数は、最初から無料公開する場合や、セキュリティで守られた有料公開の場合とくらべてどうなるのかなという実験的な要素もあります。
もちろん、僕からは段ボールを購入してくれた人に対して、「URLを貼ってください」とも「貼らないでください」とも言いませんけどね。
―― なるほど。以前ブログに書かれた「お金のイリュージョン」で言及されているところですね。段ボールを買った人は、電子書籍が読める権利と同時に、場合によってはダウンロードURLをどうにかできる自由も得られる。
コトリコ そうですね。仮にタダでダウンロードされる流れになったとしたら、それはお金を払って段ボールを買ってくれた人がいるからこそ、起きた現象だと思うんです。そういう「たくさんの人が読む」という動きの可能性も対価として考えてもらうと、お金の価値がちょっと違ってみえるのかなと。そういうビジネスモデルの実験的な意味合いを込めているのは確かです。
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