たどり着いたのは
古い集合住宅にあるシンプルなショップ
さて、先のパーツショップで淘宝網での価格を調べたときに、商品を扱うショップのひとつが内陸奥地の同じ都市にあることに気づく。ショップに電話をかけてみると「直接来て買っていいですよ」と言うので、面白そうだし行くことにした。
話によれば、電脳街にほど近い、古い集合住宅の中にあるという。住所を教えてもらい行ってみれば、そこはまさに共産主義が色濃く残る煉瓦造りの集合住宅だった。改めて電脳街周辺の古い集合住宅に目を凝らせば、各住宅の入口近くにはPCパーツの空き箱がこれでもかと積んであり、運送会社のバイクが行き交う。
「あぁ、さっきの電話の人ね、入って」と若い男性に呼ばれ、いかにも家賃が安そうなレトロな住宅の一室に入る。中では淘宝網で使われているチャットソフト「淘宝旺旺(タオバオワンワン)」の着信音とキーボードの打鍵音ががひっきりなしに鳴っている。
居間にあたる広い部屋では、PCが置かれたデスクが5つあり、男性2名、女性3名の合計5名のスタッフが、PCを前にチャットソフトでやりとりしている様子。
中国でのビジネスマナーとして、会社には必ず応接用にソファーを置かなくてはいけないのだが、部屋にはそれもない。働く場所は徹底的にシンプルとなっている。住宅的には2LDKであり、1部屋は店長室、1部屋は倉庫になっていた。まだ20代前半とおぼしきその男性が店長で、名刺を貰おうとしたものの、名刺すら店長は作っていなかった。
若き店長が「どうも! マザーボードが欲しいんだっけ? どの型番?」と聞くので、七彩虹のAMD 780Gマザーと金河田のケースが欲しいと答えると、「七彩虹だけは扱ってるよ。金河田はないけど、PCケースなら売っている。ちょっと待って」と、居間に向かいスタッフと相談するや、電脳街へと向かって去って行ってしまった。
電脳街でつきあいのあるメーカー代理店に行って、商品を取りに行ったのだ。オンラインショップが電脳街至近の古い住宅に構えるのには理由があるのだ。
店長は何が何でも買ってもらおうという押しつける態度ではなかった。何よりやる気に満ちあふれながらフレンドリーだった。その態度に惹かれ、同店で扱うPCケースも購入。中国の商慣習通り、このオンラインショップでも店長自らが無料でPCのパーツ交換作業をしてくれた。
会ってから作業終了まで、店長の携帯電話は顧客からの電話が常にあり、その度に各顧客にも誠意を持って対応していた。「SDメモリーカードは売っています。ですが、ニセモノが(中国には)大量に流通しているので、当社が扱っているものが本物かはわかりません。心配でしたら、製造ナンバーなど、できる限りの情報を提供いたしますので。ハイ、お願いします」なんてことも電話口で話していた。中国でのショップ運営は大変だ。
それにしても、正直オンラインショップ運営の現場を見て驚いた。日本のそれはどうだか知らないが、明らかに店長をはじめ、スタッフのモチベーション、というか活気が違う。オンラインショッピングが流行る前の電脳街以上、いや、筆者自身が過去に中国で見てきたどの店・どのオフィスよりも活気があるのだ。
生き残りをかけて“人のための商売”に徹する
中国のリアルショップ
帰り際、店長に淘宝網で儲かっているか聞いてみた。「沿岸部の都市のショップには値段で太刀打ちできないね。省内の顧客が一番多いよ。省内はカバーしているつもりさ」中国の各省はそれぞれ数千万人の人口を抱える。13億人の市場という巨大なパイを求めずとも、地元の省内向けサービスで十分にやっていけるようだ。
前回記事の締めとして「電脳街のリアルショップは修理業務も行なうことでやりくりしている」と書いたが、この結末から考えるに、そうも簡単ではないらしい。
リアルショップは価格で競争せずに、“オンラインショッピングができない人のための商売”に徹するしかないのだろうか。リアルショップの店員は苦境に立たされている。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)
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