新宿を抜け出した2つのIT企業
2011年2月、2つの大手IT企業が新宿を去った。長らく新宿に本社を構えていたマイクロソフトが日本マイクロソフトへの社名変更と共に品川に移転。そして日本ヒューレット・パッカード(以下、HP)も江東区大島への引っ越しをスタートさせた。都内の方しかピンと来ないコラムで申し訳ないが、今回はそんなIT企業のロケーションについてお話ししたい。
日本マイクロソフトが本社移転を発表したは昨年の3月で、新オフィスは品川駅東口の品川グランドセントラルタワーになる。従来同社は新宿駅南口に近い小田急サザンタワーにある本社のほか、都内に7箇所に拠点を展開していた。アスキー・メディアワークスの社屋がある西新宿では、マイクロソフトの各拠点を結ぶシャトルバスが行き交うのを見ることができたが、異なるオフィス同士の往来が多いと確かに不便そうだ。今回の移転では、そのうち新宿本社、代田橋、赤坂、初台、霞ヶ関などの5カ所を統合し、約2500名の社員が同じオフィスで勤務することになるという。
一方、市ヶ谷駅近くに本社を置くHPが引っ越しを発表したのは、2010年の5月。移転先は江東区大島で、1フロアとしては都内最大級の新社屋に移転作業を開始している。かつてHPは世田谷区の下高井戸にオフィスをかまえていたが、コンパックの買収とともに品川区の天王洲に本社を移転。2006年に現在の市ヶ谷に本社を移している。今回は旧DECの荻窪事業所を筆頭に、都内に分散していた拠点を統合するのが目的。最初に聞いたときはIT企業の少ない江東区大島への移転は唐突に思えたが、振り返ればデルも目黒区五反田から神奈川の川崎市に移転したわけで、郊外(?)移転の前例がない訳ではない。
両者とも移転の目的は都内に分散した拠点の統合、それにともなう生産性の向上やコミュニケーションの促進にあるが、日本企業として腰を据えるという意味合いも大きい気がする。マイクロソフトは移転とともに会社名自体も変えてしまったし、HPは多少都心から離れても自社ビルにこだわった。外資系企業である両社が、移転と共にどこまで日本に根を張ることができるのか? 注目される。
西低東高の都内IT企業勢力地図
さて、この結果、中央区や千代田区、品川区など山手線の東側は、かなりIT企業が密集することになった。もともとこのあたりは、国内大手メーカーの本社や東京支社が多いところだが、ここに日本マイクロソフトが加わったことで、ますますIT密度が上がったといえよう。日本マイクロソフトが本社を置く汐留の周りを歩けばわかるが、Azureプラットフォームを担ぐ富士通や先日パートナー発表を行なったリコー、その他ソフトバンクやパナソニック、キヤノンMJも徒歩範囲だ。そして、もう少し足を伸ばせば、ソニー(品川)やNEC(田町)、東芝(浜松町)、NTTコミュニケーションズ(内幸町)、日立製作所、三菱電機、インテル(以上、大手町)などの企業の本社や東京拠点が目白押し。蒲田の富士通ソリューションセンター、デル(川崎)も電車で30分圏内。日本マイクロソフトは、まさに取引先のど真ん中に飛び込んだことがわかる。
こうした京浜東北線ナショナルITコミュニティと拮抗する勢力が、港区を本拠地とする港区外資集団であろう(だんだん、カノッサの屈辱のようになってきた……)。六本木・虎ノ門・赤坂・青山などは、オラクル、シスコ、グーグル、ヤフー、シマンテック、サムスン、シトリックス、アバイア、ネットアップなど、そうそうたる外資系IT企業が軒を連ねる。おおざっぱに品川区 vs. 港区という図式が見えてくるわけだ。
一方で、かつてIT企業だらけだった新宿はかなり寂しい状態になった。現在も新宿に本社を構えるIT企業といえば、トレンドマイクロやEMCジャパン、CA、ジュニパーネットワークス、チェック・ポイントくらいであろうか?(忘れていたところがあったら、ごめんなさい)。都庁の建設時は、東京の中心は新宿に移った感さえ受けたが、時代は変わったか、また戻ったかということだろう。また、オフィスビルの多くない渋谷もGMOグループ、マカフィーくらいで、なかなか苦戦している感じ。やはり西から東に流れている感が目に見える。
アスキー・メディアワークスも西新宿に本社があるため、発表会や取材のために、新宿から「逆側」に遠征することが目に見えて増えた。港区白金の日経BP、大手町のITmedia・@IT、市ヶ谷のインプレスなど、他のIT媒体の方々がますますうらやましくなる昨今である。
初出時、渋谷にオフィスのある企業としてグーグルと記載していましたが、同社は六本木へ移転済みです。また、本文ではおもに駅を中心に地名を記載しておりますが、所在地の住所はマイクロソフト、EMCジャパン、トレンドマイクロが渋谷区代々木、HPは千代田区五番町になります。読者から指摘がありましたので、お詫びして訂正させていただきます。記事は修正済みです。(2011年2月21日)
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