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TECH担当者のIT業界物見遊山 第25回

御社のユーザー事例をもっと魅力的にするには?

ユーザーが満面の笑み!Google Appsの事例に学ぶこと

2011年08月16日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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「ユーザー事例」は、製品やサービスを選定するにあたって非常に参考になるコンテンツだ。こうした事例は、文面やレイアウト、写真などある程度「定型化」されているが、先日読んだGoogle Appsの事例はその様式美をちょっと崩した試みが見られた。

競合製品が明記されているユーザー事例の魅力

 先日、Google Enterprise Dayというイベントで発表会が行なわれたので、参加してきた。エンタープライズ事業の説明など滅多にしない発表会の内容は、記事を読んでいただくとし、私がちょっと注目したのはGoogle Appsのユーザー事例である。

 まず、「おっ」と思ったのは、記事中に従来使っていた他社製品や競合製品が明記されていることだ。たとえば、Google Appsに移行する前に使っていたLotus NotesやExchangeの制限や機能面での不満を、きちんとユーザーのコメントとして載せているのである。

 これは珍しいことだ。私も過去にかなりのユーザー事例を執筆しているが、以前使っていた製品や、選定時の競合製品の名前は、だいたいチェックの際に削除を依頼される。取材の際には、かなりの勢いで昔使っていた製品の不満を言っていたのに、いざ原稿になると、消してくださいとお願いされることも多い。あるサービスプロバイダでは、複数のセキュリティ製品の性能測定やGUIのレビューを公開してくれるという条件で取材し、喜び勇んで記事に書いたら、あとからメーカー名は全部ふせてくれと依頼された。結果、もっとも性能のよい製品のみ褒められた提灯記事になったのは言うまでもない。過去、競合製品を出してもOKだったのは、技術に詳しい教授のいる大学の事例くらい。競合製品の名前を隠したがるのは、やはり戦いを好まない農耕民族の性なのだろうか。

 しかし、製品選定の際には、やはり他社との比較をするところが多いので、競合製品が明記されるGoogle Appsの事例はきわめて有用だ。ユーザーは必ず自社で使ってきた製品やサービスになんだかしらの課題や不満を抱え、新しい製品の導入に踏み出す訳で、そこが明確になっていることはユーザーに対して真摯だと感じられる。

 もう1つ「おっ」と思ったのは、取材先の担当者の表情がみんな笑顔であるという点だ。一般にユーザー事例というと、ビジネスの課題に対して真面目に取り組んでいる感じを出すためか、「堅い」「近寄りがたい」という雰囲気の写真が多い。実際、私もユーザー事例を作るとき、そんな表情の写真を使い、笑顔を前面にした写真を選ぶのはわりと勇気が要る。特にセキュリティ系の事例で笑顔の写真を使うと、「ふざけているように見える」と思う人も多いからだ。

 しかし、こういうご時世か、笑顔がもたらすポジティブなパワーは、何万行の原稿を凌駕する説得力があると感じてしまう。事例に出てきた頓智ドットの近藤純司CTOなんて、本当に晴れ晴れとした笑顔。「まさに創業期にある企業向けですね。」というフレーズと共に、「この会社はGoogle Appsを入れて、本当によかったんだろうなあ~」なんて思ってしまうわけだ。

ユーザー事例にはやっぱりお金をかけられないのか?

 私がいろんなところで話を聞く限り、多くのIT企業はユーザー事例に対してあまりお金をかけられない。専門の事例制作会社やライターさんが撮影から取材、執筆まで手掛けることが多いようだが、かなり数をこなさないと厳しいようだ。

 たとえば、先ほどのGoogle Appsの事例で使われるような晴れやかな笑顔を撮ろうと思ったら、ライティングとあがりを意識した本職のカメラマンがいないとダメだ。多くの事例の取材では初対面になるので、インタビュアーが雑談まで交わし、ある程度相手と意思疎通ができるようにならないと、笑顔は出てこない。しかも、基本的にはビジネスの話をしているわけで、笑顔を見せる回数自体が少ない。私が取材に連れて行くカメラマンは、その数少ないチャンスを捉えて、複数の表情を確実に抑えてくれる。だから、「TECH.ASCII.jpの取材記事」では、(私が手持ちのカメラで撮るような)卒業アルバムのような写真を使わずに済んでいる。

 しかし、手持ちのカメラで撮っているユーザー事例は数多い。そして事例取材でカメラマンを雇わないのか聞くと、決まって「予算がない」という返事が戻ってくる。確かにそれはその通りなのだろうが、たとえば3本分の予算を使って、1本の珠玉のユーザー事例を作ってはいかがだろうか? お金と手間をかけて作ったユーザー事例は、確実に読者の満足度を上げる。掲載される側も、決していやな思いはしないと思うのだ。

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