カラオケで、ボーカロイドの勢いが止まらない。
2010年のJOYSOUND年間総合ランキングで、ベスト10の半数はボーカロイドPの曲だった。初音ミクブームから3年が経過し、すっかり日常的なエンターテイメントとして定着したように見える。
2010年JOYSOUND年間総合ランキング
1位:残酷な天使のテーゼ/高橋洋子 2位 キセキ/GReeeeN 3位 春夏秋冬/Hilcrhyme 4位 magnet/minato(流星P) feat.初音ミク、巡音ルカ 5位 ハナミズキ/一青窈 6位 裏表ラバーズ/wowaka feat.初音ミク 7位 メルト/supercell 8位 炉心融解/iroha(sasaki) feat.鏡音リン 9位 Butterfly/木村カエラ 10位 ワールドイズマイン/supercell (出典:JOYSOUND公式サイト)
そして、長年言われ続けてきた「カラオケで使われた際に作者にお金が払われる仕組みと、ネットでの自由な使用とが両立できない」という問題にも、解決の方向が示された。これまでのボーカロイド文化との摩擦を最小限に抑えつつ、カラオケで発生する著作権使用料を作家が受け取るための手段が、ようやく見つかったのだ。
それは、音楽出版社からJASRACに「部分信託」するという方法だ。
まずデッドボールP、そして40mPという二人の作曲家はCDレーベル・クエイクと音楽出版契約をして、JASRACに部分信託したことを表明。JOYSOUNDを運営するエクシングは、子会社で音楽出版社のエクシング・ミュージックエンタテイメント社内に「第二事業部」を設け、11月末から出版社として部分信託の事業を開始したことを発表した。ほぼ同時期に、初音ミク発売元のクリプトンも出版事業への参入を表明している。
だがここで疑問が残る。制度上は以前から可能だったはずのこの手法を、このタイミングで各社が始めた理由は何なのか。そしてJASRACへの部分信託や、ボーカロイドPが音楽出版社と契約するメリットは何なのか――。それを関係者に聞いてみた。
前半はエクシング・ミュージックエンタテイメントの代表取締役・安井正博さんと、エクシングでボカロ曲のカラオケ入曲に関わった小林拓人さんに、そして後半はボーカロイドPとしても活躍する作曲家・Re:nG(レンジ)さんを交えてお話を伺っている。
部分信託について
インタビューの前に、今回はかなり複雑な話になるため、事情を整理しておきたい。
今回に限らず、業務用通信カラオケ(以下カラオケ)で作家が受け取れるお金は「著作権使用料」というものだ。内訳はカラオケ店に生じる「演奏権」使用料と、通信カラオケメーカーが端末に楽曲を送信する際に生じる「複製権」使用料の2つ。それはどちらも「著作権管理事業者」が徴収して、そこを通じて作家に分配される仕組みになっている。
この場合の「著作権管理事業者」は、事実上JASRACしか選べない。それはカラオケ店からの使用料徴収は人海戦術が頼りで、後発各社の規模ではカバーできないためだ。
だが、JASRACへの楽曲信託は、ネットで育ってきたボーカロイド楽曲にとっては、マイナス面の方が大きかった。従来は作家が許せばリミックスや勝手なPV、「歌ってみた」などで自由に二次利用できたものが、すべてJASRACのルールで管理されることになるからだ。
そこでlivetuneやsupercellなどの作家たちは、メジャーリリースする際にもJASRAC信託はしなかった。だが、カラオケで作家が著作権使用料を得るには、何らかの形でJASRACに信託しなければならない。
考えられるのは、現行の著作権制度にある「支分権」という権利を使い、信託する範囲を作家の都合に合わせるということだ。これを「部分信託」という。
著作権管理事業者に信託する範囲は、演奏・録音・貸与・映画・CM・インタラクティブ配信・通信カラオケといった項目から細かく選べるようになっている。ネットでの利用を自由にするためには、「インタラクティブ配信」を信託範囲から外せばいい。外した部分は自主管理でもいいし、JASRAC以外の著作権管理事業者に預けることもできる。
カラオケで著作権使用料を得たければ「演奏」「通信カラオケ」を信託すればいい。
ただし、個人でJASRAC登録すると、「原則」として全作品を信託しなければならない。音楽出版社を通してJASRACに登録すれば曲単位の登録が可能になるのだが、部分信託に特化した業務を請け負う出版社はなかった。業界の慣習は今まで、ほぼ「全信託」オンリーだったからである。
つまり事実上、曲単位の信託も、支分権を使った部分信託も、個人ではできない状態が続いていたのである。それでは次のページから、インタビューパートをどうぞ。
(次のページに続く)

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