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山谷剛史の「中国IT小話」 第75回

AMDとNVIDIAが中国市場でそれぞれ目指す異なる道

2010年07月13日 12時00分更新

文● 山谷剛史

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「3D」で攻勢をかける!? NVIDIA

 PCパーツメーカー営業担当者の売り込み合戦の中でも、こと最近はビデオチップが面白い。

 ヘビーユーザーに知られているところだが、AMDは過去に中国向けの製品を投入している(そしてその後、日本など中国以外にも投入されるケースがほとんどだ)。古い製品をさかのぼれば、「RADEON 9550」、「RADEON 9800SE」、「RADEON HD 3690(RADEON HD 3830)」、「RADEON HD 4830」、最近では「RADEON HD 5670」といったところ。

 これらはいずれも既存製品が出た後、スペックダウンを行なった製品であり、大抵カードベンダーは消費者の購入意欲が沸く「499元」(約6700円)という価格で投入する。ビデオカード以外ではPentium D専用チップセットの「RX410/RXC410」も中国で発売されたが、これは不安定で不評だった。

 こうした製品が流れていることを知る中国メディアや中国のヘビーユーザーの中では「歩留まりが低いものを中国市場に送っている」という認識はあれ、「元の製品よりコストパフォーマンスがよくお買い得」と認識され、「神カード」と称されるなどなかなかの評判。製品がリリースされるや、PC系メディアは「RADEON 9550を9600XTに変える方法」や「RADEON HD 4830を4850に無料で変更する方法」などのBIOSアップデートによる製品の見かけ上のアップグレード記事を掲載し、多くのヘビーユーザーが安くワンランク上のビデオカードを手に入れる。

WesternDigital「WD8088AADS」

WesternDigital「WD8088AADS」

 少々脱線するが、筆者のPCにはWestern Digitalがリリースした中国限定HDDが入っている。中国では北京オリンピックが2008年8月8日8時8分にスタートするほど「8」にこだわりがある。そこで同社は中国市場向けに808.8GBという縁起のよいサイズのHDD「WD8088AADS」を投入した。

WesternDigital「WD8088AADS」のベンチマーク(CrystalDiskMark)結果

WesternDigital「WD8088AADS」のベンチマーク(CrystalDiskMark)結果

 ところが、こちらは同じ「歩留まりが低く」「コストパフォーマンスがいい」製品ではあるが、「不良セクターがあるのでは?」と躊躇するユーザーが多い。しかし筆者のPCでは1年ほど利用しているが、問題なく利用できている。

NVIDIAのネットカフェへのアピールがための全国行脚も毎週のように報じられる

NVIDIAのネットカフェへのアピールがための全国行脚も毎週のように報じられる

 AMDに対しNVIDIAはどうか。NVIDIAのネットカフェオーナー向けのプレゼンテーションでは、各PC端末で利用者が3Dコンテンツを楽しむ次世代のネットカフェを提案している。3Dコンテンツが各端末で見られることにより、同業他店との差別化が図れるとのアピールに躍起だ。

 今まで価格面でアピールしておらず、アピールにおいて常にAMD(ATI)に劣勢を強いられているだけに、これはNVIDIAにとって待ちに待った起死回生の策といえる。3DをアピールすることからNVIDIA主催の会には、3D表示できるディスプレーメーカーも加わり、複数の企業がアピールしている。既存のNVIDIA製ビデオカードでも使えるが、いかんせんディスプレーも追加する必要があるのでAMDよりはハードルが高い。

 中国の強大なネットカフェPC市場に向け、バリュー価格帯の製品を中国向け製品や、大口顧客向けに安く投入しシェアを広げようとするAMDに対し、NVIDIA(+ディスプレーメーカー)は3Dコンテンツ視聴システム導入でアピールしている。

中国の2010年5月におけるビデオチップ別市場シェア(出典:中関村在線)

中国の2010年5月におけるビデオチップ別市場シェア(出典:中関村在線)

中国の2010年5月におけるメーカー別ビデオチップ市場シェア(出典:中関村在線)

中国の2010年5月におけるメーカー別ビデオチップ市場シェア(出典:中関村在線)

 シェア争いの結果は、AMDが圧勝するか、NVIDIA陣営が圧勝するか、ないしは共存するかのいずれかになろう。PC端末のスペックがネットカフェのアキレス腱だけに、AMDとNVIDIAのどちらも共倒れすることは考えられない。

 日本人的感覚でいえば、高いネットカフェと安いネットカフェが共存しそうな気もするが、中国人はとかくコストパフォーマンスを優先しがちなので、AMDの優勢ではないかと考えている。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)

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