コンピューターのデータを別メディアに保存するというシンプルなバックアップでは、東日本大震災のような自然災害に対して万全とは言えない。本稿では、特に災害対策を前提にしたデータ保護を実現するソリューションを紹介していく。
災害対策では情報資産は後回し?
3・11の東日本大震災は、地震自体やそこから誘発された津波、停電などが想像を超える規模になったことで、従来のバックアップ計画で想定されなかった被害が多発した。東日本大震災の津波の被害地域では、建物自体が流されてしまい、残された建物も使用不能になった。システム自体やデータ、重要書類が消失したところも多い。実際、町役場が壊滅状態になった南三陸町では、町が保管していた戸籍データがすべて消失している。また、局舎自体が流されたこともあり、ネットワークは途絶。さらに津波の影響で原子力発電所を停止し、沿岸部の火力発電所も被災したため、大規模な計画停電が実施された。
データやコンピューターどころか建物自体が消失し、ネットワークも電気も使えない。こうした事態まで想定したバックアップ計画を持つ企業は、皆無に等しい。そのため、多くの企業はバックアップを含めた災害対策やDR(Disaster Recovery)、ひいては企業全体のBCP(Business Continuity Plan)を練り直す必要が出てきた。ITという観点では、システム自体のデータセンターへの移設、拠点やシステム自体の冗長化、遠隔地でのDRサイト構築やデータのバックアップなどの施策が必要になってきた。
既存のDRソリューションは
高価で災害対策の要件を満たせない
従来、中小企業ではコストのかかるDRまで意識してバックアップを設計することは少なかった。バックアップデータを保存したテープなどは、同じ社屋のサーバールームなどに保管。コンピューターが故障した際に代替機にリカバリするというオペレーションが前提となっていた。被害のおよぶ範囲をそれほど広く見積もっていなかったため、コストと手間のかかる災害対策は決してメジャーではなかったわけだ。
また、一口に災害対策といっても、企業全体の経営資産から見れば、やはり人命や資金、生産設備など、いわゆる「人、金、モノ」が優先されるのが一般的である。その結果、再検討をした結果であっても、情報資産を意識したバックアップ計画は道半ばという企業が多いようだ。
さらに、災害対策やDRの再構築が進まない背景としては、従来のソリューションが高価だったり、要件を十分満たしていないという面もある。たとえば、大企業の基幹システムや商用サイトでの導入を前提にした同期型の高可用性ソリューションでは、メインサイトのほかに遠隔のDRサイトを設置。データベースなどはリアルタイムにレプリケーションされるため、メインサイトがダウンしても、DRサイトで運用を継続できる。高いレベルのRTOとRPOが求められるこうしたソリューションでは、データ保護とシステムの可用性を両方担保できる。
しかし、こうしたソリューションは、DRサイトの構築やWAN回線の調達、DBやアプリケーションのレプリケーションに膨大な費用がかかる。またシステムを冗長化し、同期させるための設計が難しいという難点もあった。
高可用性ソリューションを利用できない中小企業では、重要なシステムのデータ保護のみにフォーカスした施策を導入することが多い。もっとも一般的なのは、バックアップをとったテープなどのメディアを遠隔保存するというアーカイブだ。バックアップデータを収納したテープなどは本社、支店、営業所などで相互に持ち合ったり、専門業者の保管サービスを活用。日々のバックアップ運用に遠隔保存のためのフローを盛り込むことで、災害対策に役立てようというものだ。
とはいえ、こうした遠隔保管の施策は、物理的なメディアからデータをリカバリする必要があるため、どうしても搬送の時間がかかり、交通機関の影響も受けてしまう。また、昨今はデータの大容量化でテープの本数が増え、運用自体が煩雑化しているという現状もある。
(次ページ、レプリケーションの低価格化やクラウドをもっと活用)
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