次世代クリエイターの育て方は「スタジオ型」ではなく「アイドル育成」
―― アイドルなど、音楽アーティストの発掘・育成にも通じる話と思うのですが、吉浦監督のような才能を見つけ出して育てる過程は、従来の「労働集約」的な作り方とはずいぶん異なっていますね。
長江 作家の支援、言い換えれば「生活保障」が重要になると思います。ディレクションズは子供向け番組のコーナーアニメ制作も多数請け負っているので、それを若いクリエイターに発注しています。もちろん「イヴの時間」のような大型作品の場合には、一定期間それに専念してもらうため、フィーをお支払いしていきます。
―― しかし、どれだけ優れた才能を持っていても、個人で持てる「引き出し」には限界があります。グループ制作体制にはそういった背景もあるのでしょうか?
長江 それももちろんありますが、クリエイターの成長段階に応じ、必要なステージを提供するのが我々の使命だと感じています。前の作品で個人制作をやり切った吉浦監督にはアシスタントを3~4名付けた上で、原画や動画といった工程をアウトソーシングできる体制を取りました。その一方、1人でとことん作り込む方が持ち味を出せるクリエイターもいますので、ケースバイケースではないでしょうか。
―― よく指摘されることですが、ツールの進化と低価格化で、クリエイティブ自体はかなり小規模なチームでも出来るようになりました。一方、その才能を育てる組織の規模や、機能のありかたが問われているように思えます。
長江 スタジオのようにクリエイターを抱えると、「食べさせる」ことにとらわれすぎてしまうと思いますし、作家の成長を第一に考えた場合、様々なパートナーと仕事をする方が広がりが出ると考えているので、専属契約の形はとっていません。
3000枚を完売したDVD、再販しない理由は「申し訳ないから」
―― 取材前に改めてAmazonを確認したところ、まだDVDの1巻~3巻が販売されていないことに驚かされました。劇場公開して話題が盛り上がっているタイミングなので、正直もったいないとも感じてしまうのですが。
Image from Amazon.co.jp |
![]() |
---|
イヴの時間 act01:AKIKO (数量限定生産) [DVD] |
長江 実は、想定外のことが重なった結果なんですが……まず、GyaO!さんで2ヵ月に1回の配信を予定していたところが、1話配信まで漕ぎつけた段階で、4話目以降は「最低4ヵ月、間を空けないとリリースできない」ということが判明しました。これはさすがにまずいと頭を悩ませましたね。
そこで苦肉の策として思いついたのが「1話ごとにシングルDVDを出す」という変則的な方法だったんです。何らかリアルな「モノ」が世の中に存在すれば、ファンの記憶をなんとか維持できるのではないかと。なので完成品ではなく「ブートレグ」(海賊版)と呼んでいたくらいです(笑)。
1300円という価格設定とはいえ正直、15分だけのシングル盤を買っていただけるのだろうかという不安でいっぱいでした。いざフタを開けてみると徐々に売れはじめ、結果として、予定していた各巻3000枚は公式ショップとAmazonの直販だけで完売しました。
こうした経緯に加え、初回限定版を買って作品を支えて下さったお客さんへの手前、再販希望が多いからといって、すぐに増刷して販売するということにはためらいもあります。劇場版が落ち着き、一段落するまでお待ちくださいということでご容赦いただけないかと……。
―― なるほど、そういった経緯があったんですね。「放送権料の高いテレビでなくても結果が残せる」と証明出来たのはエポックメイキングな出来事だと思います。ネットとDVDでは画質も違えば、劇場版では新規カットやリテイクなどを施すなどといった工夫も功を奏しているんでしょうね。
長江 劇場版は、テアトル東京さん、アスミックエースさんのご厚意に負うところが大きいです。アニメ「時をかける少女」を手がけられた方の発案でオールナイトイベントも実現しましたし、公開後1ヵ月経ってもモーニング・レイトでの上映を確保いただいています。
―― 根底は、作品自体のクオリティの高さが、関係者も含め、共感する人の輪をひろげたことと言えそうですね。そのクオリティに達するまで、じっくり作り込めるネットというウィンドウを選べたことも背景にありそうです。

この連載の記事
- 第8回 日本版Huluはそこまで衝撃的じゃない
- 第7回 ドワンゴ・夏野剛氏が語る「未来のテレビ」【後編】
- 第6回 ドワンゴ・夏野剛氏が語る「未来のテレビ」【前編】
- 第4回 ニコ動っぽい字幕が出るテレビ「ROBRO」3つの革新
- 第3回 ドワンゴ小林宏社長が語る「ビジネスとしてのニコニコ動画」
- 第2回 「コンテンツID」で広告モデルを徹底するYouTube
- 第1回 狙うはテレビとパソコンの「間」 GyaO! の勝算を聞く
- この連載の一覧へ