「コンテンツの調達方針」が180度転換した
――MGのお話が出たところで、コンテンツの調達コストについての考え方も伺いたいと思います。旧GyaOさんは、たとえばアニメーションの追いかけ配信※3を実施する場合には、コンテンツの権利元、多くの場合は製作委員会に対して、MGを支払っていました。ビデオグラム※4による回収が厳しくなっている権利元にとっては有り難い存在でもあったわけですが……。
川邉 まず、そもそも何故MGという仕組みが存在しているかに立ち返って考える必要があります。MGをお支払いするということは、ある意味で「その金額以上は儲かる可能性が低い」ということを認め、かつ「フルレベニューシェア※5では十分なお支払いができないですよ」と暗に宣言しているようなものです。
私はMGを映像業界の「慣習」だと捉えていますが、インターネット配信時代においては、私たちが広告をしっかりと獲得し、コンテンツの使用量、すなわちストリーム数を明示することで、納得感のある提案ができると考えています。
人気が高く、よく視聴されたコンテンツについては想定以上の収益がもたらされるよう努力しますし、一方で結果的にあまり視聴されなかったコンテンツに対しては「共同の」リスクを互いに負担しましょう、ということです。私たち自身もフェアな立場に立ちたいと思いますし、実績を通じて権利元企業との信頼感を醸成し、価値観を共有していくことを目指しています。
※3 アニメーションの追いかけ配信 : TVでの放送終了直後から1週間限定で配信を行なうスタイルが一般的だった
※4 ビデオグラム : DVDなどの映像パッケージメディアのこと
※5 フルレベニューシェア : 完全成果報酬制。MGを設定せず、視聴数に応じてコンテンツの使用料を支払う
――なるほど。これまで多くの動画配信サービスが志向してきて、なかなか打ち破れない壁でもありましたが、そこに挑戦しているということですね。
川邉 もうひとつ、GyaO!に対してコンテンツを提供してもらうことで、我々からは重複的な価値を提供することができるという点も重要です。GyaO!での広告付き無料配信の期間終了後は、GyaO!ストアでの有料販売が可能です。GyaO!とGyaO!ストアでの収益機会を提案できるわけです。
時事性や話題性など、一定の条件を満たしている必要はありますが、無料配信期間では1日約2億PVを持つYahoo! JAPANトップページからの誘導も期待できます。
このように様々なメリットを提供できると自負していますが、それでも条件が折り合わない、つまりフルレベニューシェアに応じて頂けない場合には、残念ですが調達をあきらめます。「エンターテイメントビジネスは黒字でなければ意味がない」というのがプロデューサーとしての私のポリシーでもあります。
商用映像(プロコンテンツ)の調達方針と収益構造の変化
GyaO!はMG(最低保障料)の撤廃による調達コストの低減を図っている。これまでのコンテンツ利用(著作権使用)のビジネスモデルでは、利用者がMGを先に支払い、権利者にはその利用の多寡に関わらず一定の売上げが発生することが多かった。 一方、GyaO!型の調達方針ではMGが発生しないため、権利者には初動の売上げがもたらされない。しかし、MGが設定されている場合に比べ、コンテンツの利用に応じて発生する利用料への料率(売上げにかけ算される率)が高めに設定されることが多い。
結果として、仮にコンテンツが十分に視聴されれば、従来よりも大きな収益がもたらされることも期待できるが、逆にあまり視聴されなければ、当初の売上げを下回ることもあり得る。
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