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プロだけが知っている、CMS選定の表ワザ・裏ワザ (3/3)

2009年10月16日 21時15分更新

文●諏訪光洋/株式会社ロフトワーク代表取締役社長、清水 誠/楽天株式会社編成部

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「詳しい社員をアサインできないなら、詳しい人を中途採用してしまえばいい。私も以前このパターンで入社しました」(楽天・清水氏)

――最後に、CMS選定にあたっての何か「裏ワザ」があればこっそり教えてください。

諏訪 裏ワザといえるかどうかわかりませんが、ソーシャルコンピューティングの第一人者として知られるフォレスター・リサーチのシニアアナリスト ジェレマイヤ・オウヤンさんが提唱する「POSTメソッド」を紹介しましょう。POSTは「People」(人)、「Objective」(目的)、「Strategy」(戦略)、「Technology」(技術)の頭文字を取ったもので、システムの導入はこのPOSTの順番の通りに実践する必要があると言われています。これがCMS導入でも当てはまる。

 CMSの選定や導入を先にしてしまうと失敗します。誰がどのように運用をするのか(People)、そして何を実現するのかをしっかり見極め(Objective)、そして戦略を考える(Strategy)。最後にCMSを選定する(Technology)。このPOSTの順番に進めれば「大失敗」は避けられるのではないでしょうか。

清水 では僕からは裏ワザを2つ紹介します。まず、プロトタイピング。特にCMSを初めて導入する場合、導入後の具体的な運用が想像と違っていたために期待外れに終わる、というリスクがあります。CMSを導入することで、何がどう変わるのかを具体的に理解することが重要です。そこで、実際のサイトを使って実際の組織やメンバーを反映させたシナリオを作り、デモをしてもらう。紙芝居的なペーパープロトタイプでもOKです。無償の提案では難しいことが多いので、Proof-of-Concept(PoC)のためのプロジェクトを作り、予算を付けられればベストですね。導入後の「大失敗」を避けることができるので、お金をかける価値はあると思います。

 2つ目は、詳しい人を中途採用してしまう方法です。CMS導入は業務プロセスの変更を伴うので、社内のコンセンサスを得て予算を確保する、組織の役割や体制を調整する、運用の実情を理解する、考え方の啓蒙をする、などの時間がかかるタスクが社内で発生します。コンテンツ管理に関するある程度の知識と経験を持ち、ベンダーやパートナーと建設的な協力体制を作りながら主体的に導入・変革プロジェクトを推進できる社員をアサインできればベストですが、難しい場合は経験者を採用してしまえばいい、と。私もこのパターンで以前の勤務先に期間限定で入社しました。

諏訪 すごい、超裏ワザですね(笑)。清水さん、今日はありがとうございました。実はこの対談、もっと軽いモノを考えていたのですが、気がつけばすごく深くなってしまいました。最後まで読んでいただいている読者の方、ありがとうございました。

 僕らは制作業界の中ではCMS導入を相当進めている会社だと自負がありますが、それでもプロジェクトごとに発見があります。まだまだ改善しなければいけないことや、新しい開発手法、さらなるプロジェクトマネジメント力の強化という僕らの課題、そしてCMS自体にもまだまださまざまな課題と求められる進化があると思います。

 この何年かでサイトの規模が急激に大きくなっています。「平屋」なサイトしかなかったのが急激に「ビル」が増えてきている。もうCMS無くしては構造体を保てない、作れないサイトがどんどん増えてます。そんな中でつくる手法も技術(CMS)もどちらもまだまだこれからなんだと思います。今日清水さんと話しても、プロジェクトのたびにも発見がある。CMS導入に関係するユーザビリティやマーケティングもそれぞれでとても深い世界だし、担当者に必要なプロジェクトマネジメントもそれだけで“身を立てられる”技術です。サイト検索など新しい技術は進化しつづけるし、身に付けるべき知識は広がる一方です。

 10月28日に国内の主要な7つのCMSを比較するセミナーを開催します。これも「CMSどれがオススメ!」というマルバツの話をするというより、それぞれの思想や哲学の違いから大規模Webプロジェクトのさまざまなパターンや全体像を俯瞰できれば、と思っています。

 清水さんとの対談もきっと今回の対談を発展させたもっと面白いものになると思います。ぜひみなさん、楽しみにしていてください。

著者プロフィール

諏訪氏

諏訪光洋

株式会社ロフトワーク代表取締役社長。
1971年米国サンディエゴ生まれ。慶応大学総合政策学部(SFC)を卒業後、JapanTimes社が設立したFMラジオ局「InterFM」(FMインターウェーブ株式会社)立ち上げに参画。クリエイティブ業務を経た後、同局最初のクリエイティブディレクターへ就任。1997年渡米。School of Visual Arts Digital Arts専攻を経てNYでデザイナーとして活動。1999年クリエイティブの新しい形の流通を目指しクリエイターネットワーク「loftwork.com」の構築をスタートし株式会社ロフトワークを林千晶と共に設立。2003年 代表取締役に就任。


清水氏

清水 誠

楽天株式会社 編成部。CMS/IA実践者。
1971年東京生まれ。国際基督教大学を卒業後、凸版印刷にてモールサイト「CPJ」や3Dアバターチャット「WorldsChat/J」の立ち上げに参画。2000年からはUS系のWebインテグレータ「Scient」「Razorfish」にて、数多くの企業へユーザビリティ、情報アーキテクチャ、コンテンツ管理に関するサービスを提供した。2004年からは発注者側へシフトし、IAやCMS、Webを活用した改善プロジェクトをリードした。現在は楽天にてアクセス解析の標準化と全社展開を推進しながら、IAやCMSに関する研究と実践を続けている。個人サイトは「実践CMS★IA」

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