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実例に学ぶ ブログ炎上 第4回

炎上の見事な鎮火例

2007年01月01日 00時00分更新

文● 伊地知晋一

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炎上の際、対応を誤ることで、さらに被害を大きくしてしまうケースがあります。しかし、炎上を見事に鎮火し、逆に自身のブログのファンを増やすことに成功した事例もあるのです。民主党の衆議院議員長島昭久氏のブログ「翔ぶが如く」です。この事例は、炎上の際にどのように対応するかということについて、多くの示唆に富んでいます。

世間の注目を集める事件に、
根拠を明確にしない断言で炎上

 2006年2月16日の衆議院予算委員会において、民主党の衆議院議員(当時)である永田寿康氏の発言が世間の注目を集めました。ライブドア元社長の堀江貴文氏が当時の自民党幹事長・武部勤氏の次男に対し、3000万円の振込みを指示したというものです。後に当時の民主党代表である前原誠司氏の辞任にまでつながった、いわゆる「ライブドア送金指示メール騒動」です。

 この問題の真偽がまだ明らかにならず、前原氏をはじめとした多くの民主党議員が強気のコメントをしていた2月22日、民主党の衆議院議員 長島昭久氏が自身のブログ「翔ぶが如く」において、「ここで多くを語ることはできないが、この勝負絶対勝てる。今日初めてそう確信した。代表や野田国対委員長があくまでも強気である意味が良くわかった」と書いたことで平均1日300程度だったブログに7万を超えるアクセスが殺到し、炎上が発生しました。

 また、この炎上を受けて翌23日に「ブログ炎上」というタイトルで再度根拠を明示しないまま、「絶対に勝てると確信した」と書いたことが燃料投下となり、より炎上が激しくなりました。

 しかし、2月23日の夕方には、「『ブログ炎上』などと不謹慎な表現を使ってしまったことをお詫びしなければ。寄せられたコメントの大半は真摯なご意見ばかり」と、コメントが多数寄せられている事象に対する認識を変え、24日には「寄せられたすべてのコメントに目を通した」として、謝罪と説明に関する記事を書きました。その後も2回にわたり、押し寄せたコメントに対して真摯な対応を行ない、炎上を見事に鎮火させました。

 この事例で注目したいのは、見事に鎮火させたことで長島氏のブログの人気が高まったことです。炎上以前は1つの記事に対して数件だったコメントが、炎上鎮火後は少ない日でも百件近く、多い日では数百件のコメントが書き込まれ、長島氏を応援するものも少なくはありませんでした。

批判を正面から受け止め鎮火した稀有な例

 今ほど炎上という事象が頻繁に起こってなかった時期に、これほど見事に対応した事例を私は知りません。

 そもそもこのブログが炎上した一番の原因は、根拠をはっきりさせないまま、あいまいな問題を断言してしまったことにあるでしょう。世の中で話題になり、意見も分かれていることに関して、一方の立場で言い切ったわけですから、そこに反対派のコメントが殺到することは自然な流れです。とりわけ、長島氏は渦中の民主党の一議員で当事者に近い立場にいたわけですから、炎上の規模も大きくなります。

 この事例でもっとも注目すべき点は、寄せられた意見を真正面から受け取って、きちんと対応したことでしょう。集まったコメントには、いわゆる「荒らし」的なものも多かったのですが、数多くのコメントの中からきちんとした批判を汲み取り、謝罪すべき点はきちんと謝り、言葉足らずだった部分には丁寧な説明をしています。長島議員はコメントについて「その中の多くが、示唆に富むものであったり、襟を正されるものであったり、国民の皆さんの偽らざる心情を吐露したものであった」と書いています。コメントの中から真剣な意見を抽出していくことも、1つの重要なリテラシーといえます。

 そのように寄せられた意見に、真正面から受け止めて、真摯な言葉で対応していけば、ブログを見に来た人の中から支持者に加わるものや、批判的なコメントをよせていた人も支持者に変化していきます。そうするとコメントも好意的なものが中心になりますし、一部の「荒らし」だけが目的の野次馬のような人間も、その場に居づらくなって書き込みをやめます。誠実な対応がネットの自浄作用を生むといってもいいでしょう。

クレーマーを強力な支持者へ変える

 炎上という事象は一見ネットを介して野次馬が集まり、集中して1ブロガーをいじめているという構図に見えてしまうかもしれません。実際にそのような側面もまったくないわけではないでしょう。

 しかし、ブログを見て、それにコメントを寄せる人々は、何らかの形でブログに書かれた内容に興味を持ち、ブログの筆者に対して自分の思う意見や主張を聞いて欲しいと思って書くわけです。

 「クレーマーはロイヤルカスタマーを生むチャンス」という言葉があります。クレームをつけてくる人というのは、その対象に何らかの興味がなければ、クレームをつけないものです。寄せられたクレームにしっかりと対応することで、そのクレーマーは強力な支持者(ロイヤルカスタマー)へと変わります。

 長島氏のブログに寄せられる炎上後のコメント数が炎上前よりも、その後の方が増えたことを見れば、この言葉を体現した事例であるということが分かります。

議論の場を残すことで被害を減らす

 こういった炎上事例で、寄せられたコメントを削除したり、その受け入れを停止することは少なくなりません。また、ブログそのものを閉鎖してしまうケースもあります。真剣に意見を書き込んだ人にしてみれば、それは意見を黙殺され、議論の場を奪われたことになり、火に油を注ぐことにしかなりません。

 こういった対応を行なった場合、削除したコメントがGoogleのキャッシュなどを元に復元され、他のサイトで転載され続けたり、ブログを書いた人の勤務先などに電話が殺到するなど、炎上による被害は大きくなり、問題を解決しようとしても手に負えなくなることがあります。

 今回の事例では、ブログを継続し、コメントをそのまま受け入れ続けました。その結果、トラブルの起きたブログで、意見交換や謝罪をすることで、ブログの中だけで問題を解決することができたのです。

著者・伊地知 晋一(いじち しんいち)プロフィール

伊地知氏

伊地知氏写真

株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ専務取締役。 1968年生まれ。e-mailを活用したマーケティング会社を経て、2000年ライブドア(当時オン・ザ・エッジ)へ入社。執行役員として2003年「ライブドアブログ」をスタートさせ、国内最大のブログサービスに育て上げる。その後、2年半の間に「やわらか戦車」のプロデュースを行なうなど、50以上のネットサービスを手がける。著書に『CGMマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ)がある。


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