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実例に学ぶ ブログ炎上 第9回

炎の中を突き進むブログ

2007年01月01日 00時00分更新

文● 伊地知晋一

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ブログはあくまで自己表現の場であり、言論や表現の自由があります。そのため、ブロガー自身が意図せず「炎上しやすい話題」に触れてしまうケースも存在します。今回の炎上は、火元の炎上規模が大きいために関連のある別のブログにまで飛び火したという事例です。本来の火元ではないブログなのに炎上するという点では前回紹介した「類焼」と同じですが、混同を避けるためにこれを「延焼」という表現で説明したいと思います。

炎上しているブログを支持して延焼

 2006年1月のライブドア事件で堀江貴文氏のブログが炎上しましたが(第1回「炎上とは何か」参照)、それに関連して堀江氏を擁護する意見をブログに掲載した複数のブログも炎上しています。

 これらは、炎上しているブログを意図的に支持しているのですから、ある程度覚悟したうえでの炎上だと言えます。ライブドア事件の場合、堀江氏のブログ「livedoor 社長日記」は2日間でコメント数が1万件にものぼり、システムに異常な負荷がかかったため、やむなくコメントの受け入れを停止しています。まさに「史上最大の炎上」と呼べるものでした。

「livedoor 社長日記」がコメント欄を閉鎖したことによって、ライブドアについて意見を書き込みたいと考えた人が議論の場を失ってしまうことになりました。そこで、「ライブドア・ウォッチャー」と呼ばれるライブドアに興味を持ち、感想などを書き込んでいたブログが次のターゲットとなったのです。

 この現象は炎の勢いがあまりにも大きく、事件に関係していないライブドア社員のブログや直接的に関係のない一般のブロガーにまで飛び火しています。つまり、火災が他におよぶ「延焼」の状態となったわけです。

「ミラーマン」再び逮捕で起きた「延焼」

 延焼にはこんな事例もあります。

 一時、メディア上に「ミラーマン」という言葉が登場しました。2004年、JR品川駅のエスカレーターで手鏡を使って女子高生のスカートの中をのぞこうとしたとして、東京都迷惑防止条例違反の罪で罰金刑を受けた経済学者・植草一秀氏を揶揄するために使われた言葉です。植草氏は逮捕当時、テレビでも活躍していた著名な学者であったことから、2ちゃんねるなどのネット掲示板では「祭り」状態となりました。

 その一方で、いまでも植草氏の冤罪を信じる人たちもいます。同年6月、植草氏を擁護する目的で、「AAA植草一秀氏を応援するブログAAA」(以下「応援ブログ」)が立ち上げられました。この応援ブログでは、植草氏の無実を信じるブロガーの思いの丈をつづり、植草氏の近況や公判記録、マスコミの関連記事などを毎日のように紹介しています。

 ところが2006年9月13日、植草氏が再び同じような形で逮捕されてしまいました。京浜急行品川~蒲田駅間の電車内で女子高生の下半身を触った東京都迷惑防止条例違反の容疑です。

 この逮捕をきっかけに、応援ブログは炎上しました。植草氏に対する批判のはけ口となっただけでなく、植草氏を擁護する姿勢を崩さないサイトの管理人に対する非難も集まったのです。批判のコメントを寄せた人たちにとっては、痴漢という犯罪行為への嫌悪感もあったでしょうし、再び同じ過ちを犯した植草氏を擁護するブログそのものが許せない存在に映ったのでしょう。

延焼もブログを知ってもらうチャンス

 植草氏の応援ブログは自己の過失ではないものの、応援している相手が世間から攻撃されたため植草サイドのブログとして巻き添えをくらいました。

 延焼はターゲットとなった火元の炎上規模の大きさに影響されます。特に堀江氏の事例ように、火元のブログが閉鎖されるようなことになると被害が広がる可能性が高まります。もしもあなたがビジネスでブログを活用しており、延焼を避けたいのであれば、規模の大きな炎上に関する話題には安易に触れないことをお勧めします。

 ただし、忘れてはならないのは、植草氏の応援ブログは決して痴漢行為を肯定しているのではなく、あくまでも植草氏の冤罪を主張しているということです。たとえ少数意見で、立証するのが困難な主張であっても、公序良俗に反さない限り、誰にも妨げられるべきではないと思います。応援ブログは現在も更新を続けていますし、コメントも批判的な意見は削除していますが、受け付けているようです。

 そもそもブログとは自己表現のためのツールであり、炎上したからといって閉じるべきものではありません。主張したいことがあるならば、炎上を恐れて批判におもねることなく、持論を訴え続ければよいのです。類焼の解説でも述べましたが、延焼もまた、たくさんの人に自分のブログを知らしめるチャンスだと前向きに考えるべきです。

著者・伊地知 晋一(いじち しんいち)プロフィール

伊地知氏

伊地知氏写真

株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ専務取締役。 1968年生まれ。e-mailを活用したマーケティング会社を経て、2000年ライブドア(当時オン・ザ・エッジ)へ入社。執行役員として2003年「ライブドアブログ」をスタートさせ、国内最大のブログサービスに育て上げる。その後、2年半の間に「やわらか戦車」のプロデュースを行なうなど、50以上のネットサービスを手がける。著書に『CGMマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ)がある。


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