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実例に学ぶ ブログ炎上第5回

混在する2種類の炎上

2007年01月01日 00時00分更新

文● 伊地知晋一

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ひとことで炎上と言っても、その性質は決して一様ではありません。大別すると一方的に批判が寄せられる「批判集中型」と、批判と賛同の双方の意見が交わされる「議論過熱型」の2種類に分けられます。2006年8月にスタートした、一般市民からの投稿記事でつくるインターネット新聞「オーマイニュース」は、2つのタイプそれぞれで炎上した経験を持つ珍しいサイトです。今回はオーマイニュースを例に、炎上の性質を2つのタイプに分類して説明します。

CGM型の新しいニュースメディアの登場

 オーマイニュースは、一般市民が投稿した記事を掲載するインターネット新聞です。既存の新聞やテレビのように一部のメディア人が取得した情報を一方的に押し付けるのではなく、市井の人が記者として記事を投稿し、情報を発信します。また投稿された記事に対して他の人がコメントをつけることやトラックバックを行なうことができます。ブログ的な機能を持ちながら、集合知を利用するまったく新しいメディアとして韓国で2000年にスタートしました。韓国のオーマイニュースは2002 年の大統領選では盧武鉉(ノ・ムヒョン)候補の当選に影響したと言われています。

 日本では2006年6月1日に、日本版準備blog「オーマイニュース開店準備中blog」が立ち上がり、8月28日に日本版が創刊されました。編集長にジャーナリストの鳥越俊太郎氏が就任したこともあって、既存メディアに少なからず影響を与えるのではとオープン前から大きな注目と期待を集めました。

 ところが、日本のオーマイニュースは、炎上が頻発するニュースサイトになってしまったのです。

編集長の2ちゃんねる批判にコメント殺到

 最初はサイトのオープンに先立つ「開店準備中Blog」の段階で、鳥越編集長の不用意な発言によって炎上が起きました。

 きっかけは2006年7月10日、「ITmedia News」に掲載された鳥越編集長のインタビュー記事でした。このなかで鳥越編集長は2ちゃんねるを攻撃するような下記の発言をしています。

「2chはどちらかというと、ネガティブ情報の方が多い。人間の負の部分のはけ口だから、ゴミためとしてあっても仕方ない」

 その結果、同日、開店準備中Blogに掲載された「みなさんの『記事』を募集します!」という鳥越発言とはまったく関係のない記事のコメント欄に、鳥越編集長に対する批判が殺到しました。

 中心となったのは「2ちゃんねらー」と呼ばれる、2ちゃんねるの熱心なユーザーです。鳥越編集長はその後「ゴミため発言はあくまで“一部”の2 ちゃんねらーを指して発言したが、記事に掲載されなかった」といった釈明を行ないました。しかし、炎上の発端となった記事を書いた記者によって、「取材中には”一部”という発言は無かった」という反論がなされ、さらなる批判を浴びています。

オピニオンを打ち出した記事に対する意見が殺到

 約3カ月の準備期間を経て、2006年8月28日に創刊された日本版のオーマイニュースですが、創刊当初から炎上が多発することになりました。

 オーマイニュースは当初、記事を有料で提供する市民記者と、記事に対する意見をコメント欄に投稿できるオピニオン会員との2種類の参加制度を設けていました。市民記者は原則実名で銀行口座の登録を義務付けられていましたが、オピニオン会員はメールアドレスの記入だけで参加可能でした。

 多種多様な意見を取り入れるために門戸を広く開放していたのですが、その結果、市民記者の記事の多くに対して、匿名性の高いオピニオン会員から批判的なコメントがつき、炎上するケースが頻発したのです。

 というのも、オーマイニュースで配信される記事にはメジャーな新聞やテレビなどで報道された記事に、市民記者が個人の考えを加えたオピニオンが多数存在していました。特に、政治関係の記事など微妙な話題が多かったため、記事に対する読者の受け止め方が賛成と反対とに明確に分かれます。その結果、コメント欄で議論がぶつかり、炎上が沸き起こったのです。オーマイニュース創刊当初には、投稿される記事ほとんどが炎上するような有様でした。

 オーマイニュース側はこういった意見が殺到する状況を「荒らし」とみなし、これから市民記者を守るために、11月17日、「コメント欄においても『責任ある参加』のレベルを高め、より一層の『建設的な議論』につなげる」(鳥越編集長による制度改定の説明)という発表をし、オピニオン会員を廃止。記事へコメントできるのは市民記者のみに限定しました。サイトのオープンからわずか2カ月半での制度変更でした。この過程でも運営スタッフが「ユーザーからの意見を募集しておきながら、まったく一方的に自分達の主張だけを押し付けている」と批判を浴びました。

批判集中型と議論過熱型

 オーマイニュースで起きた2つの炎上事例を比較してみましょう。

 まず、前者の事例は明らかに鳥越編集長の不用意な発言が原因であり、批判が大半を占める「批判集中型」の炎上となりました。炎上で最も多いタイプです。 不用意な発言による炎上は、当連載の第3回で紹介した評論家の池内ひろ美さんのブログ炎上例でも紹介しましたが、鳥越編集長の場合、ブログ上でなくリアルな世界で発した言葉に対する批判が、たまたま同じタイミングで掲載された直接関連のないブログに集中したという点が特殊です。特に著名人や大企業の代表などに多いケースですが、批判集中型の炎上では現実の世界での発言に対する反感が、その人や会社に関連する ブログへと引火するケースもあるのです。

 一方、後者のようなそれぞれの記事でコメントが大量に発生した炎上は「議論過熱型」だと言えます。自分なりの見解を主張する市民記者の記事に対して、読者の受け止め方が肯定と否定とに明確に分かれ、議論がぶつかることは自然なことです。異論や反論によって、コメントが殺到するという同じ現象であっても、批判集中型とはまったく性質が異なる炎上であって、炎上するほど議論が活発になっていることは、本来オーマイニュースが意図していた状況だったとも言えるほどです。「開かれた言論空間の創造」(ニュースリリース)を目指して創刊した市民参加型のニュースサイトなのですから、活発な議論による炎上は想定されていたはずです。結局、オーマイニュースはオピニオン会員を廃止し、コメント欄を制限したことで、多様な意見が出にくい環境となりました。

旧来のメディアのやり方で炎上を招いた

 オーマイニュースにおける2つの異なるタイプの炎上例を紹介しましたが、実はこの2つの事例には、「批判的なコメントを書く行為=荒らし」とひとくくりに見なしていたという共通点があります。いじめ報道などでも見られるように、新聞やテレビなどリアルな世界のメディアで活躍する人には、物事をひとくくりにしてしまう傾向が顕著にあります

 2ちゃんねるにも荒らし的なコメントもあれば、真面目な書き込みもたくさんあります。しかし、鳥越氏は旧来のメディアの視点でそれをひとくくりに「ゴミため」と言ってしまい、真面目な書き込みをしている2ちゃんねらーを憤慨させました。インターネットはコミュニティ性が高いので、サイトの参加者はそのサイトへの所属意識を強く抱いています。自分の所属する母体をけなされた場合、自分自身がけなされたことと同じように感じるものです。

 オピニオン会員制度を廃止したのも、批判的なコメントと荒らし目的のコメントをひとくくりに捉えたことが根底にあります。また、既存メディアのようにほとんどの市民記者が反論にさらされる機会に直面したことがないので、批判的な意見に対する免疫が少なかったことがあるのでしょう。運営者側は殺到するコメントの量と、コメントの中に散見される荒らし的な感情的意見および個人批判だけに目を取られ、サイト全体が荒れていると判断しています。ですが私が見た限りでは、真面目な意見も少なからずあったように思います。

 どのようなサイトであれ、訪れる多くの読者はそのサイトに頑張って欲しいと感じている人たちであり、さらにわざわざ手間をかけて投稿までする人は、その内容に高い興味を持っている人が多いのです。そうしたコメントをすべて荒らしだと見なし、排除してしまっては、批判集中型の炎上が起きるか、サイトそのものが見放されるという結果しか招きません。もちろん単なる荒らしは排除すべきですが、そうであるならば機能を閉じるのではなく、仕組みでそれを実現できる方法を考えるべきでした。

 オーマイニュースを「自由な言論の場のプラットフォームにしたい」(鳥越編集長)ということですが、運営側が既存のメディアのやり方で、批判的な声や建設的な意見すら荒らしとしみなしたことで、たくさんの人の意見が活発に飛び交う空間ではなくなりつつあります。CGMとしての機能を自らが放棄することで、既存のメディアと代わり映えがしなくなっているのです。オーマイニュースをWeb上の新しいCGM型メディアとして成長させていくのであれば、運営者側には既存のメディアの発想ではなく、CGMの力学を十分に理解することが求められているといえます。

著者・伊地知 晋一(いじち しんいち)プロフィール

伊地知氏
伊地知氏写真

株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ専務取締役。 1968年生まれ。e-mailを活用したマーケティング会社を経て、2000年ライブドア(当時オン・ザ・エッジ)へ入社。執行役員として2003年「ライブドアブログ」をスタートさせ、国内最大のブログサービスに育て上げる。その後、2年半の間に「やわらか戦車」のプロデュースを行なうなど、50以上のネットサービスを手がける。著書に『CGMマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ)がある。


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