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四本淑三の「テレビを捨てよ、動画サイトを観よう」 第6回

なぜ我々は「けいおん!」に萌えてしまうのか?

2009年06月07日 14時00分更新

文● 四本淑三

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「けいおん!」のモデルはP-MODELにpillowsではないか!

アニメ版「けいおん!」Blu-ray Disc版 (C) かきふらい・芳文社/桜高軽音部

 齢45にもなる大人は、普段アニメなんか見ない。特に萌え萌えな絵柄には拒否反応を感じている……はずだ。

 もっとも世の中には様々な人がいる。中には例外もなくはないだろう。でも大抵は見ないものだと信じたい。何故ならアニメに萌える中年男の姿というのは想像にすら耐え難い奇怪なものだからだ。

 しかし万が一、仮にもそんな中年男がいるとすれば、一体全体どのツラ下げて見ていやがるのか? そのツラをぜひ見てみたいものだ。

 と、おもむろに鏡に手をやると、そこには当たり前ながら見慣れた顔があり、すまなそうな表情でこちらを覗き込んでいる。うむ。宇宙戦艦ヤマトからこっち、アニメにはまったく縁なく過ごしてきた私だが、今回は完全にハメられたと言えよう。

 そのきっかけは、登場人物の名前にあった。

 平沢唯 秋山澪 田井中律 琴吹紬

 ん? これは何か覚えがあるぞ。これはもしや、

 平沢進 秋山勝彦 田井中貞利 ことぶき光

 にひっかけているのではないか。

 この4人は、80年代から90年代にかけて活躍していた日本の代表的なテクノユニット「P-MODEL」のメンバーの名前だ。「平沢」「秋山」まではいいとして「田井中」「ことぶき」が苗字として並ぶというのは偶然ではありえない(もっとも「ことぶき」は名前の一文字を仮名に開いたもので苗字じゃないけど)。

P-MODELは2000年から活動を休止している。1995年に発売され、廃盤になった「舟」(写真)は今年3月にオンデマンドCDとして再発された

 のみならず、山中さわ子、真鍋和、鈴木純という登場人物の設定もあるらしい。これはそれぞれthe pillowsの山中さわお、真鍋吉明、鈴木淳じゃないのか。

 萌えなフリして、その実「けいおん!」はマニアックなロック漫画なのか。ひょっとして平沢進の所属事務所の名称*1を略してこのタイトルになったりしていないか。ならば見ておかなければならない。

 果たしてその印象は「バンドをナメんじゃねえ」であった。「お茶ばかりしてないで、ちっとは練習しやがれ」でもあった。中でも大きな不満は、平沢唯の楽器がGibsonのLes Paulだったことだ。平沢進にひっかけているなら、そこはTalbo*2にすべきだろう。

 が、そんな風にブーイングを連発しつつも、結局、今に至るまで全話見続けている。そろそろ「けいおん!」でも見るかなと、毎回お茶とお菓子を用意しているこの私は一体何なのか。

 そこで思い出すのは、その昔の「やっぱり猫が好き」*3というドラマだ。女性三人と猫一匹が登場し、自宅の一室を舞台に様々なドラマが展開していく。見ている側からは、テレビの向こう側にもうひとつの日常があり、そこに見えない客としてお邪魔している感覚であった。

 その視聴体験と似ているのだ、「けいおん!」のそれは。画面の向こうにあるのは女子高生の他愛もない日常であり、バンドは登場人物を関連付ける要素のひとつに過ぎない。

 そこでポンと膝を叩く。距離感のない画面の向こう側に、我々は(と、ここで卑怯にも複数形にする)普段から萌えていたではないか、と。

*1 (有)ケイオスユニオンという。間の「オスユニ」を取って平かなに変え「!」を付けると……。

*2 東海楽器が1983年に製造販売を開始した、鋳造アルミボディーのユニークなエレキギター。平沢進の他、GLAYのHISASHIやホッピー神山などが愛用。

*3 1988年~1991年にフジテレビ系列で放映されたテレビドラマ。出演は小林聡美、もたいまさこ、室井滋。脚本には三谷幸喜も参加していた。

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