前回に続き、デザイナーへの上手な依頼の方法を具体的に考えていきます。
ナビゲーションやバナーなどのつくり方は書籍やWebサイト上に山のようにあるので、ここでは、Webデザインの編集術、デザイナーへの発注と検証の方法についてお話しします。
みなさん、デザイナーにお願いするときには必ず、「売れるWebサイトにするのが目的なので、ユーザーが使いやすいようにしてください」と強調してください。それを伝えなかったあるショップの失敗例を紹介しましょう。以下は、デジタル家電とグッズをメインに取り扱うECショップのオーナー・山崎有也さん(大阪市・42歳・男性)とわたしのやりとりです。
朝日奈 Webサイトのリニューアルに失敗した、という経緯を教えてください。
山崎さん もともと自分で制作したサイトだったので、ださかったのです。いかにも素人づくりでした。そこで、売り上げも伸びてきた3年目に思い切ってビジネスライクなサイトに脱皮しようと、全面リニューアルを試みたんです。
朝日奈 それで何が失敗だったと思うのですか?
山崎 Webデザイナーさんに、「デザインを洗練させてください」と依頼したんです。結果的に、見た目は見違えるようだ、と言われるほど格好よくなったのですが、なぜかアクセスが減っていきました。それに、「買い物かご」に到達しても最終的に買い物をしてもらえないケースもすごく増えまして…・・・。
朝日奈 ユーザビリティはどうでしたか?
山崎 はい、そこが失敗の原因でした。ボクもスタッフもデザイナーも、デザインがよくなったことばかりを喜んでしまって……。あとから複数のお客さんに「急にきれいになってびっくりしました。でも、ボタンがどうなっているのかわかりません」と言われたんです。その後、いろいろな人に聞いてみると、みなさん同じ意見でした。
朝日奈 お客さんにとって、使いにくいサイトになってしまったわけですね。
山崎 そのとおりです。
朝日奈 デザイナーに依頼するときに、なんと伝えたのですか?
山崎 あまり深く考えずに、とにかく「おしゃれに」「洗練させて欲しい」「整然とさせて、商品が迫力をもって目立つように」といいました。しつこいほど(苦笑)。
朝日奈 「ユーザビリティを第一に考えてください」とは言わなかったのですね。
山崎 そうなんです。あとで思えば、そのことに言及しておくべきでした。Webデザイナーさんなのだから、「サイトの使いやすさが必要なことぐらいはわかっているだろう」と思い込んでいたのです。
朝日奈 それはデザイナーさんによりますよね。山崎さんは、フリーのWebデザイナーさんに依頼されたのですよね?
山崎 そうです。資金の点からそれが精一杯でした。知人の紹介のフリーのWebデザイナーに頼んで、デザインを洗練させることだけに重点をおくことになりました。今思えば、その人はデザインは得意だけれど、ユーザビリティについては念頭に置かない、知識がない人だったのでしょう。
朝日奈 教訓が残りましたね。同じ失敗をした人は、たくさんいらっしゃいますよ。
山崎 はい。「デザイナーさんだから、Webサイトのことはわかっているだろう。というのはこちらの思い込みだ」ということです。こちらがしっかりしないと。何をしてほしいのか、よく考えて、朝日奈さんがこの連載でよく書いておられるように、「依頼したい要点を、紙に箇条書きで考えを書き出す」という作業から始めるべきでした。
朝日奈 貴重な失敗談(笑)をありがとうございました。
山崎さんは4ヵ月後、今度はユーザビリティを念頭においてコンサルタントに相談されました。そこから紹介されたデザイナーに依頼しなおして再度リニューアルを実行し、アクセスを以前より増やして乗り越えたということです。勉強代がかかりましたね。
山崎さんのお話しに出てきた、「買い物かごへのアクセス」に関しては、第33回、第34回、第35回の「注文フォームで去られないためのポイント」をご参照ください。
「お客さんが使いやすいサイトがいちばんです」と強調する
デザイナーとはデザインをする人であって、「売れるショップをつくる人」ではありません。「デザインを優先すると機能性は低くなる」というのは、Webサイトだけではなく、工業デザインでもどの世界でも、よくあることです。デザイン性と機能性、そのバランスが大切なのです。
ここで、依頼する側の編集力の出番です。デザイナーにまかせっきりにすると、これまでに自分が顧客から直接聞いて感じとっていたことが生きる場面がありません。みなさんのECショップをいちばんわかっているのは、みなさんです。依頼主であるみなさんが、それを有効に編集に活かしてください。
売れるWebサイトづくりは、みなさんが責任を持って、これまでに自分の手でつかんだユーザビリティについて事前にデザイナーにきちんと説明し、理解をしてもらうことからはじまります。
これは制作会社に依頼するときでも同様です。編集を担当するディレクターがいても、「プロだからわかっているだろう」と思ってまかせっきりにすると、あとで「ちゃんと言えばよかった」ということにつながります。
「うちのショップのことは自分にしかわからないだろう」ということを前提に、「売れるサイトをつくりたいので、お客さんが使いやすいのがいちばん」という第一の目的を告げ、入念な事前打ち合わせから始めてください。
また、最初にそれらのことにしっかり耳を傾けるデザイナーや制作会社に発注することが重要です。
次回につづきます。
著者プロフィール
名前 | 朝日奈 ゆか | info_email_01[アットマーク]yumble.com |
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