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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第48回

長期衰退の坂を転がり落ちる日本

2008年12月24日 10時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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世界市場から取り残されるIT産業


 しかし第二の道は困難だ。特に深刻なのは、21世紀の中核産業となるべきIT産業で、日本では1980年代からまったく変わらない産業構造が続いていることだ。大きな新規参入はソフトバンクぐらいしかなく、NTTやITゼネコンの寡頭支配が続いている。おかげで情報通信機器の世界市場では、日本メーカーはGDP比(約8%)にも満たない。これは日本車の世界シェア(約16%)の半分以下だ。

 実は1970年代までの米国も、似たような状況だった。GMやIBMなど「恐竜」と呼ばれる巨大企業の経営が行き詰まり、自動車や電機で日本企業が市場を席捲した。しかし80年代にマイクロソフトやインテルなどの小企業がIBMを倒し、IT産業の構造を革命的に変えた。恐竜は投資銀行のLBO(負債による企業買収)で解体され、資金と人材が成長産業に移動した。最近、評判の悪い投資銀行の本来の機能は、このような産業間の資源移転 を行なうことである。

 しかし日本の銀行は80年代以降も古いシステムを守り、融資競争によるバブルで自壊したが、公的資金で救済されて生き延びた。おかげで資金配分システムは変わらず、ハイリスク型のビジネスも困難だ。個人金融資産1500兆円のうち、ベンチャーキャピタルにまわる資金は1兆円しかないが、それでも余っているという。没落する製造業から成長するIT産業へ資本や労働を再配分する仕組みが機能していないため、既存企業に対するチャレンジャーが出てこないのだ。


緩やかに衰退できない日本


 これから高齢化する日本にとっては、緩やかに衰退してゆく道も悪くないが、緩やかに衰退できるほど現実は甘くない。今週、私のブログで「若年世代は私の18倍の税金を負担する」という研究結果を紹介したら、記録的なアクセスが集まった。もちろん実際にはそんな課税は不可能なので、いずれ年金支給額の大幅削減かインフレによって「ご破算」にするしかない。

 成長がすべてを解決するわけではないが、成長がなくなると、さまざまな利害対立が顕在化する。ゼロ成長の続いた90年代には、企業倒産や金融危機が起こり、雇用が削減されて「格差が拡大した」などと騒ぐ人々が出てきた。それを解雇規制などの「雇用対策」によって防ぐことはできないどころか、かえって失業者を増やすだけだ。

 問題は景気対策ではなく、資本・労働市場の改革によって日本経済に高度成長期のエネルギーを取り戻すことだが、それは容易ではない。平均年齢が約55歳の国会議員は、現在のシステムの受益者なので、このまま「食い逃げ」できるからだ。そのシステムの被害者になる若者が政治・経済構造を変えないと、日本経済は遠からず破綻する。彼らは、それにいつ気付くだろうか。 


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に 「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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