世界は彼らをどう見たか?――「パナソニック」か「松下」か
社名とブランドが一本化することは、いくつかの課題を解決することになる。
ひとつは、「松下電器」と、各ブランドの体系とが、ユーザーから見てわかりにくかったという課題の解決だ。
ソニー、東芝、日立、シャープ、サムスン、LG、フィリップスという世界の名だたる電機メーカーは、「社名=ブランド」となっている。それに対して、松下という会社名に対して、パナソニック、ナショナルの2つのブランドを持ち、さらにその下にVIERA、DIGAなどのサブブランドを持っているのが、これまでの松下電器のブランド体系であった。強いサブブランドが、強いブランドを形成するというのが牛丸副社長の持論だが、社名とブランドを別々に持つことは、強いブランド形成にはむしろ足かせとなる。
それは牛丸副社長自身が、身を持って体験している。
本連載の1回目で触れたように、1997年、当時、カナダ松下電器の社長を務めていた牛丸副社長は、社名をパナソニックカナダへと変更する決断をした。
「パナソニックというブランドと、松下電器の社名が結びついている消費者はごくわずか。例えば、寄付をしても、松下電器の名前で登録され、それがパナソニックだとは多くの人が気が付かない。社名とブランドの違いは、むしろマイナス要素の方が大きい」
また、海外では、「MATSUSHITA」という社名が正確に発音されない場合が多い。「マチュシタ」といった発音になってしまうのだ。「マツシタ」と「マチュシタ」では、まるで別の会社のように聞こえてしまう。これでは松下の社名を海外で展開する意味がない。
そうしたいくつかの要素を背景に、牛丸副社長は、カナダ松下の社名変更に踏み切った。
カナダの販売子会社の社名変更という点で、全社的にあまり注目されなかったことは、この決断の遂行には、ある種プラスに働いたといえよう。そして、当時の上司として北米地域を統括していたのが、現会長である中村邦夫氏であったことも幸いだった。中村会長もそれを後押ししたからだ。
だが、11年前の社名変更の決断は驚きだった。
「当時としては異例の決断。それをやってのけた意味は大きい」と評価するのは、坂本俊弘専務。坂本専務が率いるAVCネットワークス社の海外事業比率は76%。自身もこれまで海外では、「マツシタの坂本」ではなく、「パナソニックの坂本」という言い方を繰り返してきたというが、それはやはり、海外におけるパナソニックの認知度の高さを熟知していたからだ。
今年1月のCESで、坂本専務はキーノートスピーチの大役を務め、会場を満員にしてみせた。この時も、Matsushita Electric Industrial Co.,Ltdという表記はしたものの、前面に打ち出したのはPanasonicであった。
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