このページの本文へ

桜子のビジネスリーダーズインタビュー 第5回

IT業界で働く桜子のビジネスリーダーズインタビュー

メディアを取り巻くカンブリア爆発

2008年10月14日 04時00分更新

文● 桜子(Interviewer&blogger)

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

これからのメディア業界で
伸びるのはどこ?

 今年5月に『グーグルに勝つ広告モデル』を出した岡本氏。マスメディアとマーケティングの未来を本質的なメカニズムにさかのぼって考える一冊として、本書では、周囲を取り巻く環境変化の構造と変革の方向性を交えて、マスコミ業界へ改革の必要性を訴えている。

 テレビ、ラジオ、新聞、雑誌の4マスメディアのビジネスモデルの本質は、大衆の注目の卸売りです。英語で言うアテンションを集めて卸売りしている、アテンション・エコノミー。これが20世紀型マスメディアの本質です。

 一方、近年騒がれている21世紀メディアとしてのグーグルが依拠する経済は、インタレスト(能動的な興味・関心)です(原文)。

 従来のアテンションの卸売りビジネスに、インタレストの卸売りビジネスが加わる。この状況を池の中の鯉で考えてみる。従来のビジネスは、池の中にいる鯉を相手に、いつ、どこで、何を、どうやって仕掛けたらよいか考えていればよかった。ところがインターネットが誕生して、池に小さい穴があき、鯉自らが穴に向かって動き始めた。小さい穴はやがて大きな穴になっていく。

 ふと気がつけば、池の中の鯉が少なくなった、あるいは以前と同じアプローチをしても反応が鈍くなった、そんな状況だと私は考える。だとすると?

桜子 テレビ、ラジオ、新聞、雑誌の今後は厳しい。でも自分がマスコミ志望の場合、どこへ入ったらいい? ここで“いい”の定義はお給料下がらず横ばいという意味です。

岡本 出版社なんじゃないかな。一番大変そうと言われているけどね。テレビって、今年4~6月の決算期見てもらいたいんだけど、むちゃくちゃになっていると思うよ。超固定産業だから来年下手すると赤字になるかも。そしたら削るのは人件費しかない。制作費は微々たるものだから。

 どうするのかなぁとつぶやきながら、電博(電通と博報堂)やテレビ局の方が読んだら憤慨するであろうことを喋り始めた。

岡本 端的にいうとテレビって検証するとまったく効果出てないからね。お金の無駄。GDPの2兆円を無駄に使っているようなもので、それでいて社員平均年収1500万というコスト構造を維持しているわけだから。

桜子 出版社がいいという理由は、ずばり編集と取材力があるから?

岡本 なんか代替されにくい気がするんだよね。

桜子 前回インタビューしたBPO理事長が、今グーグル時代になって一番心配なのがジャーナリズムだという意見があったのですが。

岡本 最も根本的なポイントは、雑誌というのはお金を出して買われている。そこは凄い重要だと思う。出版社はね、人が何を欲しているかを自分達で考えて企画して雑誌をずっと作っているわけで、会社の中にそういう能力がある。テレビは、視聴率の指標だけだから、数字は気にしても、人が本当に見たいものは何かと考える機能が会社の中にない。消費者が欲しがっている物をセンスする能力が全然ない、これは致命的。

 NEC前会長が『安定は不安定、不安定は安定』って言ってね。出版がこの先ならいいかなと思う理由は一番ローバスト(=強靭、したたか)だと思うから。事業の安定・不安定というのは、タイムスパンをどれくれいで取るかでゼンゼン変わってくる。テレビは50年間成長してきて凹んだことがない、こういうのはある意味、ものすごく不安定な事業といえる。他との競争がないわけだから。

桜子 戦い慣れていない?

岡本 要するに、太宰治の山椒魚。ここにいればエサが来るという場所を見つけ、良いポジショニングを確保して稼ぐ仕組み。テレビを初めとする既得権産業は全部そう。マイケル・ポーター(ハーバード・ビジネス・スクール教授。代表作『競争の戦略』で知られる)の言うとおりで、ポジショニングで勝った会社は、ある一定期間成長するけど産業構造が変わると一気にやられることが多い。日本の4マスメディアで順序を並べてみると、一番ポジショニングのうまみで構造的に利益が出るのは圧倒的にテレビだね。

桜子 地方局やスポンサーがテレビ局に支払う電波料って高いんだよね。原価はほとんどないのに。

岡本 だからあんなもの、地球上で人類が文明を作ってから一番美味しい職業でしょ。だからまあ、長続きしないと思いますよ。世の中のメカニズムっていうか、そんな甘くないのよ(笑)。 まあ、もういいんじゃない? って感じがするよね。

次ページ「メディア業界の未来はどうなる?」に続く

カテゴリートップへ

この連載の記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ