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時事ニュースを読み解く “津田大介に聞け!!” 第19回

JASRAC、なぜ公取に立ち入られたのか?

2008年05月11日 01時45分更新

文● トレンド編集部、語り●津田大介(ジャーナリスト)

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JASRACも変わっていた最中だった


── 事情を聞いていると、公取に検査されても仕方がない気がしますが……

津田 難しいところですね。単に包括契約だけが問題だったとすれば、ちょっと理解しにくいところもあります。事業収入の1.5%という割安な料金を払えば楽曲がかけ放題になるという契約で一番恩恵を受けてきたのは、JASRACではなく放送局ですから。

 包括契約の場合、従来、放送局は放送でかけた楽曲を全曲JASRACに報告してこなかったんですよ。一年のうち、何週か期間を決めて報告すればよかった。このため、「放送で自分の楽曲が流れているのに、JASRACから利用料が入ってこない」と不満を言うアーティストもいました。

 でも、放送局としてはいちいちBGMなども含めた楽曲を全曲報告するのは手間もコストもかかりますから、JASRACからの「全曲報告してくれ」という要請をのらりくらりかわしてきたような歴史があるわけです。

 ただ、最近はさすがに時代的にもアーティストからの強い要求もあって、全曲報告するようになっています。すでにNHKは1年ほど前から全曲報告の形になっていますし、民放各社にも要望を出している状況で、少しずつ全曲報告に移行しつつあるところだったんです。方向としては、包括契約の悪い部分が解消されつつあったところに、そのタイミングで公取が入ったというのは、ちょっとJASRACに同情する部分もありますね。


── 結局、公取は何を問題視しているのでしょうか?

津田 一番は、やはり包括契約のありかたなんでしょうね。ただ、市場の健全さや配分が適正かどうかという話は別として、JASRACの包括契約が放送局にとって非常に便利なものであったのは確かです。

 包括契約そのものがダメということであれば放送局への影響は大きいでしょう。細かく1曲ずつ報告するのはかなり煩雑な作業なので、権利処理が済んでいる曲ばかりがかかるようになって、放送で流れる曲の多様性が失われる可能性もあります。

 ただ、今はフィンガープリントのような、放送でかかった曲を把握する技術も進化してきていて、包括契約の中で全曲報告を行なうことも実現できないわけではありません。そうした状況が整えば、包括契約そのものが問題ということにはならないんじゃないですかね。

 全曲報告を伴わない包括契約がNGとなると、すでに包括契約でJASRACと契約しているニコニコ動画も問題になる可能性があります(関連記事)。全曲報告が望ましい形であることは事実ですが、あくまでその方向に向かうための過渡期的な契約形態として、現在の包括契約そのものを全部否定することはないんじゃないかとは思いますね。

フィンガープリント 音楽の波形を分析してデータベースと照会し、その音楽がどの曲であるかを特定するという技術。例えば、グレースノートの「Mobile MusicID」などがある(関連リンク)。


筆者紹介──津田大介


インターネットやビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、 CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」や「インターネット先進ユーザーの会」(MiAU)といった団体の発起人としても知られる。近著に、小寺信良氏との共著 で「CONTENT'S FUTURE」。自身のウェブサイトは「音楽配信メモ」。



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