10月29日、インターネットの新しい通信基盤「IPv6」の普及に関わっていた天才エンジニア、萩野純一郎氏(通称「itojun」氏)が逝去され、7日に告別式が行なわれた(関連リンク)。享年37歳。まだまだ活躍の期待される年齢だっただけに、本当に惜しまれてならない。
萩野氏が残した功績がいかに偉大だったか。彼が最後に弊社刊「ネットワークマガジン」に執筆した特集記事とともに振り返ってみよう。
「IPv6」の普及、啓発に尽力した
itojun氏は「KAME」と呼ばれる、各種OSでIPv6を使用可能にする基盤ソフトウェアを作成するプロジェクトを先導していた。
IETF(Internet Engineering Task Force)、IAB(Internet Architecture Board)といったインターネット技術の標準化に関する国際機関に加えて、WIDE(Widely Integrated Distributed Environments)など国内におけるインターネットの研究プロジェクトにも所属。「IPv6ネットワークプログラミング」(アスキー刊)なども著述し、IPv6の普及、啓蒙活動にも幅広く活躍していた。
現在、KAMEはFreeBSDやNetBSD、OpenBSDといったフリーのOSに組み込まれ、商用/非商用を問わずインターネットのサーバーやネットワーク機器で動作している。
ちなみにIPv6の身近な採用例は「Mac OS X」だ。Mac OS XではデフォルトでIPv6が有効になっており、「Bonjour」というネットワーク技術を通じてIPv6は自動的に利用されている。Macユーザーであれば、それと気がつかないままIPv6を体験している人も多いだろう。
IPv6だけではない、先に挙げたBSDやMac、それ以外にもセキュリティ方面など、itojun氏の業績は数限りない。あまりの多才さに驚いた彼を賞賛して、FreeBSDプロジェクトのWarner Losh氏は「Itojun-san of the Kame project in Japan seems to be six different people inhabiting one body」(身はひとつだが、実体は6人いるようだ)とまで述べている(関連リンク)。業績の質、量ともに、すばらしい「hacker」だったのだ。
IPv6が普及した未来、それはあらゆる機器がインテリジェント化され、有線/無線でさまざまな情報をやり取りできる時代となるはず。そうなったときに我々の生活がどれだけ素晴らしいものになるのか想像はつかない。しかし、その礎石には間違いなくitojun氏の名が刻まれるだろう。
ただ、今はプログラマーの一人としてitojun氏の功績を讃え、心からのご冥福をお祈りしたい。
(次ページに続く)
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