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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第278回

日本円のデジタル化が近づいてきた

2024年04月09日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 通貨のデジタル化に向けた地ならしが着々と進んでいる。中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency、CBDC)をめぐる最近のニュースに触れていると、こうした実感が強まってくる。

 国際決済銀行(Bank for International Settlements、BIS)は2024年4月3日、日本、米国、欧州など7つの中央銀行が、デジタル通貨を使って国境を越える決済システムの実験を始めると発表した。デジタル通貨を用いて、国境を越えた送金を簡単にするシステムの構築を目指すという。

 フランス銀行、日本銀行、韓国銀行、メキシコ銀行、スイス国立銀行、イングランド銀行、ニューヨーク連邦準備銀行が参加する実証実験は、「プロジェクト・アゴラ」と呼ばれている。実験の運営を担うのが、BISだ。

 今後、各国の民間銀行の参加を募集し、中央銀行と民間銀行が共同でデジタル通貨の実験に取り組むという。

野心的な実証実験

 BISのプレスリリースを確認すると、今回の実験は、かなり野心的な内容を含むものという印象を受ける。

 現在の銀行間の国際送金システムは複雑で、場合によっては、送金の手続きを終えてから、送り先の口座に着金するまで数日かかることもある。

 問題は、海外にお金を送る際に、複数の銀行が関わることがある点にある。大ざっぱには、現在のシステムは次のような流れで送金の手続きされる。

 まず、窓口となる銀行の口座で海外送金の手続きをする。窓口となる銀行が、送金者の本人確認などを済ませ、送金を仲介する日本国内の銀行に送る。仲介を担う銀行から、送り先の国にある仲介役の銀行に送る。そこから、送り先の口座がある銀行に送金されるという流れだ。

 この例は1回の送金だが、1.日本側の窓口銀行、2.日本の仲介銀行、3.送り先の国の仲介銀行、4.送り先の口座がある銀行と、合計4行の金融機関が関与することになる。

 登場する各金融機関それぞれが情報を確認し、マネーロンダリング(資金洗浄)などの「疑わしい取引」でないかなども確認するため、時間がかかるのも当然だ。

 BISが提供する新しい国際送金のプラットフォームでは、分散型台帳技術を使って、統一的な「台帳」をつくる。BISが説明に用いている言葉こそ異なるが、仕組みはかなりビットコインやイーサリアムに似ている。分散台帳技術を使って、共通の台帳に送金の記録を書き込んでいくということだろう。

 国境を越えて資金を移動させる場合、その資金をデジタルトークンにして送る。このデジタルトークンは、おおむね仮想通貨(暗号資産)のようなものと理解していいだろう。この仕組みを使うと、仲介する銀行などを経ずに、送金元の口座から送金先の口座に資金を移動できるという構想だ。

スマートコントラクトも実装?

 今回の実証実験プロジェクト・アゴラでは、もう一つ注目したい要素がある。スマートコントラクトの実装だ。

 BISが提供するプラットフォームには、スマートコントラクトの機能も備えている。あらためて確認すると、スマートコントラクトはたとえば、事前に定義した条件が実現したら、送金を実行するプログラムだ。

 たとえば、越境ECで買い物をする場合、スマートコントラクトで、商品が届いたら送金するという契約をしておく。宅配業者のシステムに配達済みが記録されたら、その情報が銀行にも送られ、連動して銀行間の送金が実行される。プロジェクト・アゴラでは、こうしたスマートコントラクトの実証実験もするという。

CBDCの3つの特徴

 中国などの一部の国を除き、CBDCは現在も構想段階だ。しかし、今回のプロジェクト・アゴラの内容はこれまでの実証実験と異なり、その規模や内容の具体性などから、米国、欧州、日本などで中央銀行デジタル通貨が実現に近づいてきたことを実感させる。

 では、CBDCが実現したら、私たちの暮らしはどう変わるのだろうか。日銀・植田和男総裁の、3月5日の講演が非常にとても参考になる。植田総裁は次のように、CBDCと現金の違いを3つ挙げている。

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