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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第245回

PayPalが“ドル”を発行 ステーブルコインで仮想通貨が買い物用に?

2023年08月21日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 ペイパル(PayPal)が、独自のステーブルコインを発行する。

 2023年8月7日付けの同社の発表によれば、同社は「完全に米ドルで裏付けられた」PayPal USD(PYUSD)を発行するという。

 日本と米国のメディアを見ると、「大手企業で初めて」「米国の主要金融機関で初めて」との位置づけが示されている。

 これまで、主にスタートアップ企業がステーブルコインを発行してきたが、「裏付け」としていた米ドルを、実はほとんど保有していないなど、信頼性の面で課題を抱えてきた。

 しかし、電子決済の分野で世界的な実績を持つペイパルの参入は、高い注目を集める動きだ。

 日本でも、6月の資金決済法の改正でステーブルコインの発行が可能になり、複数の金融機関が参入を模索している。

日本では馴染みがないが

 日本で生活していると、ペイパルのサービスはあまり馴染みがない。

 決済のサービスというよりも、イーロン・マスクが創業メンバーに名を連ねる企業としてその名前は浸透しているかもしれない。

 しかし電子決済の分野では、明確に世界をリードする企業のひとつと言える。

 ペイパルによれば、電子決済サービスは200ヵ国以上で提供しており、25の通貨を利用できる。2023年の時点で、4億3000万件のアクティブアカウントがあるという。

 日本も「200以上」の国の一つに入ってはいるが、Suicaをはじめとした「交通系」の決済サービスや、PayPayなどのQR決済が普及しているため、決済の手段としてはあまり浸透していない。

 ペイパルの使い方は、他の決済サービスとほぼ同じで、銀行口座やクレジットカード番号を登録し、支払いや個人間の送金に使う。

 ペイパルのサービスに価値があると感じるのは、海外のウェブサービスを利用するときだ。

 海外のウェブサービスで課金が発生することがあるが、サービスを提供する企業が、あまり聞いたことのない新興企業の場合、クレジットカードの番号を入力するのは気が進まない。

 こうしたときに、ペイパルのアカウントで支払えるなら、少し安心して支払いができるかもしれない。

 日本では遅れをとっているものの、世界で浸透している決済サービスの強みはこうしたところにあるのだろう。

仮想通貨を日常の支払いに?

 サービス提供国の多さに強みがあるペイパルがステーブルコインに参入するのは、どんなインパクトがあるだろうか。

 まず、ペイパルのステーブルコインPYUSDは「完全に米ドルで裏付ける」とされる。

 仮に50億ドルのPYUSDを世界で流通させる場合、裏付けとして、ペイパルはさらに50億ドルを用意し、保有しておくことになる。

 流通するPYUSDを増やすときは、さらに等価の米ドルも調達することが求められる。

 価格が乱高下する仮想通貨は決済に向かないが、米ドルと連動させることで価格の動きを抑制するのが、ステーブルコインの特徴だ。

 決済に強みがあるペイパルがステーブルコインに参入するのは、同社が、仮想通貨の技術を日常の支払いや送金に利用できるようにする、という意思を示したものととらえていいだろう。

 実際、PYUSDのサイトを見ると、”Designated for payments”(支払指定)というキャッチコピーが目に入る。

 ペイパルは、米国ではVenmoというアプリで日本の「おサイフケータイ」のようなサービスを提供しているが、CNNによれば「まもなく」Venmoでも、PYUSDが使えるようになるという。

仮想通貨決済は失敗の歴史

 仮想通貨による支払いは、これまで失敗の連続だった。

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