岸田文雄首相が2021年12月6日の所信表明演説で、「デジタル田園都市スーパーハイウェイ」という長い名前の計画を公表した。
ぐるっと日本を周回するように海底ケーブルを敷設し、日本中どこにいても、高速の通信を実現するという計画だ。
世界中の海底ケーブルを地図上に表示する“Submarine Cable Map”というウェブサイトにアクセスしてみると、たしかに日本列島周辺の海底ケーブルは太平洋側に集中している。
現時点で公開されている情報は限られているが、日本海側にも海底ケーブルを敷設し、通信インフラを増強する計画だと考えられる。
ひとつめの手がかり
首相の発言を読み解く手がかりはいくつかある。
まず、11月16日に開かれた、デジタル臨時行政調査会の内容だ。
この臨時調査会は、首相が会長を務め、「デジタル改革、規制改革、行政改革に係る横断的課題を一体的に検討」することを目的としている。
有識者として出席している慶應義塾大学の村井純教授は、調査会に提出した意見書で、次のように述べている。
「日本を取り巻く海底ケーブルが、安全保障上の観点も含め、分散した陸揚げ局をへて世界といつでも繋がるグローバルインフラとなっているのか」
海底ケーブルが切れたり、破損したりといったニュースはときどき見かける。
2020年1月には、中東のイエメンで、海底ケーブルが切れたため、同国の大半でインターネットに接続できなくなった。
2020年1月15日付のWIRED(日本版)は、こう伝えている。
「予備のインフラ整備が遅れている地域ではバックアップとなる接続手段が限られることから、たった1本のケーブルを失うだけで国全体が不通になりかねない」
地震や漁業、海上や海中での工事などが原因で海底ケーブルが破損したり、切断されたりといった出来事は世界各地で起きるが、その際には、その際には、別の経路を使ってインターネットに接続する。
しかしイエメンでは、こうした迂回路が確保できなかったということになる。
台湾をめぐる米国と中国の緊張が高まる中、日本周辺の安全保障環境は厳しさを増している。
村井教授が述べた「安全保障上の観点」とは、こうした情勢を踏まえてのものだろう。
すでにある「インフォメーション・ハイウェイ」
もう一つの手がかりは、すでに敷設されている海底ケーブル網だ。
「スーパー」の文字は入っていないものの、日本にはすでに「ジャパン・インフォメーション・ハイウェイ」(JIH)が存在する。
冒頭で紹介したSubmarine Cable Mapでも、ジャパン・インフォメーション・ハイウェイは確認できる。
緑色の線がジャパン・インフォメーション・ハイウェイだが、日本列島を半周するような形で敷設されていることがわかる。
こうした海底ケーブル網を、日本列島をぐるっと一周する形に増強するのが、首相が述べた「スーパーハイウェイ」計画の柱となるのだろうか。
さらに、2021年10月の通信各社が発表した海底ケーブルの共同建設計画は、スーパーハイウェイの一部をなすものと言えそうだ。
NTTコミュニケーションズ、KDDI、楽天モバイル、ソフトバンクが、北海道と秋田県を結ぶ大容量海底ケーブルを設置する計画で、2023年末の完成を予定している。
地震発生時など自然災害の中でも、安定した通信環境を維持することを目指すという。
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