ヤフーを傘下に持つZホールディングスと、チャットアプリ最大手LINEの経営統合をめぐって、公正取引委員会の動きが注目されている。
一定の規模を超える企業どうしの合併については、公取委が独占禁止法上の問題がないかを審査する制度があり、ZとLINEの合併も審査の対象となるからだ。
たしかに、ヤフーとLINEの経営統合は、すごく大きそうに見える。
が、ちょっと落ち着いて考えたい。合併が実現した場合、両社が展開しているどの事業が、市場において支配的な地位を占めることになるのだろうか。
●プラットフォームの支配力は強まる
公取委が規模の大きな企業の合併を審査するときは、会社全体ではなく、ひとつ一つのサービスや商品が、市場でどんな地位にあるかをみる。
LINEが公表している2019年12月期第3四半期の決算説明会の資料をみると、LINEの「コア事業」は、広告と、コミュニケーションとコンテンツとある。
第3四半期の売上(売上収益)は、560億円で、コア事業が売上の87%を占める。
筆者がLINEのトークを開いてみると、北海道旅行の広告が表示された。そして、LINEのニュースで壇蜜さんの結婚報道を開くと、クレジットカードの広告が表示された。
こうした広告が、LINEの売上の柱だ。
一方、ヤフーにとってもメディア事業はコア事業にあたる。
ヤフー、LINEともに、メディア各社が記事を配信するニュースのプラットフォームを展開している。
両社のニュースを配信するプラットフォームがひとつになった場合、すでに強い影響力がある両プラットフォームの支配力はさらに強まると考えられる。
ニュースを配信している各メディアにとっては、今後の動向が気になるところだろう。
●チャットサービスの支配力は強まらない
チャットサービスについては、LINEはすでに月間アクティブユーザー8200万人と、国内では支配的な地位を確立している。一方、ヤフーもかつてチャットサービスを展開していたが撤退している。
LINEのチャットサービスは日本やタイなどで高いシェアを誇るが、この分野は世界規模で競争が繰り広げられている。
フェイスブックやWhatsApp、WeChatといったアメリカや中国の巨大企業に対して、LINEがどう伍していくかを考えると、国内の支配的な地位だけで独禁法上の問題があるとは判断しづらくなる。
この点について、11月20日付産経新聞の報道によれば、公取委の山田昭典・事務総長がこの日の記者会見で「日本企業同士でも、事業によっては世界市場も対象にする」との考えを示している。
公取委の事務方トップの発言は、こうした分野を念頭においたものと受け止めていいだろう。
ただ、Z側に目立ったチャットサービスがないことから、今回の合併でチャットサービスの市場支配力が強まるとは考えにくい。
●決済で支配的な立場になるとは考えづらい
各社の報道では、決済サービスでの支配力が強まるとの見方も出ている。
PayPayとLINE Payがひとつになった場合、QRコードを使うスマホ決済では、シェアが高まりそうだ。
しかし、店でスマホで支払いをする場面を考えると、QRコードではないSuicaなどのサービスも、選択肢になる。
市場をQR決済に限った競争ととらえた場合、競争相手は楽天やメルペイ、ドコモなどの名前が浮かぶ。
ただ、交通系の決済サービスなども競争相手と考えると、PayPayとLINE Payが統合したとしても、いまのところ市場で支配的な地位を確保するとまでは考えにくい。
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