中国政府が2019年中にデジタル通貨を発行するとの観測が強まる中、同国の中央銀行トップから、こうした観測を否定する発言があった。
ロイターによれば、中国人民銀行の易綱総裁が2019年9月24日の会見で、「デジタル通貨発行のスケジュール表はない。マネーロンダリング(資金洗浄)対策を含む規制上の要件を満たす必要がある」と述べた。
「デジタル人民元」とも呼ばれている中国のデジタル通貨をめぐっては、11月にも発行がはじまるとの観測報道もあった。
フェイスブックなどが準備を進める新しい仮想通貨Libra(リブラ)を巡って、アメリカの議会は厳しい視線を向けてきたが、米中貿易戦争が激しくなる中で、一定の軟化ともとれる発言も出てきた。
当面、中国政府とリブラをめぐる動きからは目が離せそうもない。
●「デジタル人民元」PayPayのようなサービスか
中国が研究・開発を進めているデジタル通貨とは、どんなものだろうか。
2019年9月6日付のロイターによれば、中国人民銀行の高官が「新しいデジタル通貨は、フェイスブックのリブラに似たものになる」と述べたという。WeChat(ウィーチャット)やAlipay(アリペイ)といった中国のIT大手が展開する決済サービスでも利用できるようになるという。
報道どおりであれば、中国のデジタル通貨は仮想通貨というより、PayPay、LINE Payに似た性質の電子マネーになると考えられる。
中国政府は2017年9月以降、仮想通貨取引所を閉鎖し、仮想通貨で資金を集めるICO(Initial Coin Offering)を禁止するなど、仮想通貨を事実上禁止している。一方で、政府が管理するデジタル通貨の研究開発を水面下で進めてきた。
「11月」との報道もあるが、中国人民銀行がいつデジタル通貨をリリースするかは現時点で明らかになっていない。一方、リブラ側は2020年上半期にはサービスを開始する計画だ。
●当初は批判されたフェイスブック「リブラ」
フェイスブックが、リブラの計画を発表したのは、6月18日のことだ。
マスターカード、ビザ、ペイパルといったグローバル企業が運営主体「リブラ協会」のメンバーに入っていたため、世界的なニュースとなった。
アメリカ議会はすぐに反応した。
下院金融サービス委員会のマキシン・ウォーターズ委員長は、議会と規制当局による調査が終わるまで、開発を停止するよう求める声明を出した。
7月に開かれた議会の公聴会では、フェイスブック傘下でリブラを管理するアプリ「ウォレット」を開発するカリブラ社のデビッド・マーカスCEOが証言したが、議員らから厳しい指摘が相次いだ。
上院のシェロッド・ブラウン氏は7月16日の公聴会で、「フェイスブックは危険だ」と強く批判した。
「フェイスブックの経歴を見てみよう。人々の銀行口座を使った実験を行い、理解さえしていない金融政策のような強力なツールを使う機会を与え、働き者のアメリカ人が家族を養う力を脅かす機会をフェイスブックに与えるのは、ばかげている」
●中国の動き受けてアメリカ議会が「軟化」?
アメリカ議会とフェイスブック側の対立が鮮明になる中で、今度は中国側が動く。
8月12日付のブルームバーグは、中国人民銀行の高官がイベントで、中国政府が管理するデジタル通貨について「リリースが近い」と述べた、と報じた。
当初、強硬姿勢が目立っていたアメリカの議会だが、一部の議員からは、”軟化”ともとれる発言も出ている。
エマニュエル・クリーバー下院議員は8月27日、フェイスブックやアメリカの規制当局に書簡を送った。
クリーバー氏の公式サイトによれば、書簡は規制当局に対して調査を要請する内容だ。クリーバー氏は書簡で、次のように述べている。
「フェイスブックが暗号通貨の潜在的な欠陥を一掃するため真剣に取り組んでいるのなら、悪意ある者がフェイスブックのミスにつけ入る前に、予防措置が適切に講じられるよう、金融規制当局と協力するよう呼びかけたい」
リブラ側がアメリカの規制当局や議会への対応に手間取っている間に、「デジタル人民元」が公開され、アメリカ側が出遅れるようなことがあれば、政府や議会が批判にさらされかねない。
アメリカ議会の一部議員の軟化には、こうした背景があるのだろうか。
●米ドルvs人民元のつばぜり合い
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