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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第16回

まだまだ先は長いかもしれないが:

仮想通貨採掘スクリプト無罪判決の意味は大きい

2019年04月01日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 Webサイトを開くと、閲覧者のパソコンの処理能力を使い、自動的に仮想通貨をマイニング(採掘)するスクリプト「コインハイブ(Coinhive)」をめぐる刑事裁判で2019年3月27日、横浜地裁で無罪判決が出た。

 ウェブデザイナーの男性(31)が神奈川県警の捜査を受け、不正指令電磁的記録保管の罪(通称ウイルス罪)で起訴されていた。

 コインハイブは、スクリプトが実装されたサイトを閲覧すると、閲覧者のパソコンのマシンパワーの一部が自動的に仮想通貨MONERO(モネロ)のマイニングに必要な計算に提供されるものだ。マイニングで得られた報酬の一部は、サイトの運営者側に支払われる。

 こうしたスクリプトがウイルスに当たるのか、刑法で処罰の対象とされる「不正な指令」に当たるのかが争われた裁判で、無罪の判断が示されたことは、全国の警察で同様の事案の摘発が相次いでいただけに、その意味は大きい。

●3つの争点

 まず、裁判所が認定した事実は次のようなものだ。 

 男性は2017年10月30日から11月8日にかけて、趣味で開設していたWebサイトにコインハイブを実装した。サイトは、ボーカロイドに関する情報を共有する内容だ。

 おもな争点は、3つある。

1. 実装されたプログラムが「不正指令電磁的記録」にあたるか
2. 不正指令を実行する目的があったか
3. 故意が認められるか

 今回の判決では、このコインハイブがウイルスに該当するかを判断するうえで、「人の意図に反する動作をさせるものか」と「不正な指令を与えるものか」の2点を検討している。

●人の意図に反するプログラムには該当

 コインハイブでは、ユーザーがどの程度の処理能力を提供するかを設定できるが、男性は「ユーザーに不快感を与えないよう」に、ユーザー側が提供する処理能力を50%に設定したという。

 判決は、この点について、「通常、自身の電子計算機がマイニングに利用されていることに気づくことはないといえる」と述べている。

 そのうえで、サイトの閲覧者が、事前にマシンパワーがマイニングに使われることを知っていた、または、閲覧中にマイニングに気づいて容認していたとみることはできないと指摘。

 これらの点を考慮し、マイニングスクリプトは、人の意図に反する動作をさせるプログラムに該当すると判断している。

●「不正な」指令とはいえない

 次に、判決は「不正」を判断するうえでの考え方を示している。

・ウェブサイトを運営するユーザーの有益性や必要性の程度
・ユーザーの有益性や必要性の程度
・ユーザーへの影響や弊害の度合い
・プログラムに対する関係者の評価、動向など

 これらを総合的に考慮したうえで、プログラムの機能が「社会的に許容できるものか否か」を判断するとした。

 判決は、事前の同意を得ていなかった点や、マイニングに気づいたとしても実行を回避する可能性がない点から、「一般的なユーザーの信頼を損なっていることも、否めない」と指摘した。

 判決はまた、対価がだれに支払われるべきかについても、問題を指摘している。通常、マイニングは計算能力を提供した人に支払われるが、マイニングスクリプトは、提供者には支払われず、サイトの開設者に支払われる。「対価性を損なっていることも否めない」と述べている。

 一方で、「運営者が得るモネロが、直接的または間接的にその後ウェブサイトのサービスの質を維持・向上させるための資金源になり得るのであるから、閲覧者にとっては利益となる側面がある」と、マイニングスクリプトの意義を一定程度認めている。

 さらに、警察の摘発を疑問視する声がSNSで上がっていたが、横浜地裁の判決も摘発の妥当性について疑問を示している。

 「公的機関による事前の注意喚起や警告もない中で、いきなり刑事罰に値するとみてその責任を問うのは行き過ぎの感を免れない」と、捜査当局側の対応を批判している。

 「プログラムコードが社会的に許容されていなかったと断定することはできない」として、不正な指令には該当しないと結論づけた。

●意義ある判決だが先は長い、かもしれない

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