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Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第11回

【法政大学名誉教授・陣内秀信氏】スクラップ&ビルドから「空間人類学」へ。江戸の地形と水網が再起動する、水都東京の未来OS

文●玉置泰紀(エリアLOVEウォーカー総編集長)

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地方都市のサバイバル。
「夜の衛星写真」が暴く海辺偏重と、失われた「内陸の都市性」

玉置: 地方都市に目を向けると、拡大を前提としたOSが限界を迎えています。アマルフィの名誉市民でもある陣内さんが見てこられたイタリアの「スローシティ」のような、固有の歴史とテリトーリオ(流域圏)を活かすダウンサイズの作法は、日本の地方にも可能でしょうか。

陣内: 可能かというより、そっちの方向に行かないと地方は潰れてしまいます。生き延びられない。日本は戦後、すべて「東京的な論理」を優先して地方に押し付けてきましたから。  

 それを最も象徴しているのが「夜の衛星写真」です。宇宙から夜の日本を見ると、光が海辺の大都市圏にだけ極端に集中していて、内陸が見事に真っ暗に沈んでいる。世界中を見渡しても、あんなに不自然な光の偏り方をしている国は日本だけです。私たちは欧米から近代化を学びましたが、その欧米すらやらないレベルで、極端にやりすぎてしまった。その過程で、かつての豊かな「流域のネットワーク」を完全に捨ててしまったんです。

玉置: 先生から事前にいただいた論考でも、その「河川流域のネットワークの分断」が指摘されていました。私自身も最近、愛知県で「尾張藩」が築いた陸・川・海を繋ぐ物流ネットワークの痕跡を歩き、それが現代のMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)に通じる基盤だと実感したばかりです。

陣内: ええ、日本人は川が持っていた本来の意味を完全に失ってしまった。かつての日本には、信じられないほど豊かな舟運や「筏(いかだ)流し」のネットワークがありました。 例えば、長野県の「飯田(いいだ)」の周辺の伊那谷。東大名誉教授で都市史の吉田伸之先生らが徹底的に調査されたんですが、このあたりの集落は単なる山奥の村ではありません。木曽の山から木材を切り出し、筏にして天竜川を下り、遠く江戸の深川にある木場まで運ぶ巨大な産業拠点だったんです。そこには巨大な富が蓄積しブルジョワジーも生まれ、日雇いの労働者も集まり、山奥なのに港のような「アーバニティ(都市性)」が存在していたというのです。当時は「木材」が年貢の代わりになるほどの圧倒的な価値を持っていましたからね。

玉置: 近代の「物理・化学的OS」への転換が、その内陸の都市性を分断してしまったのですね。

陣内: そうです。戦後、佐久間ダムなどができて水運が完全に止まり、川が物流として使えなくなった。一方でヨーロッパを見ると、ドイツのハンザ同盟の都市(ハンブルクやブレーメンなど)は内陸にありながら、莫大な投資をして今でも川や運河を物流と生活の核心として生かし続け、ヨーロッパで1位、2位を争う巨大な港として機能しています。パリだってリヨンだって、ロンドンだって、内陸で川と結ばれているからこそ「都市」なんです。彼らは歴史のレイヤーで蓄積したものを、絶対に捨てません。

「封建遺産」の意味を組み替える。成熟社会のサステナビリティ

玉置: 日本は役目を終えたインフラを「不要なもの」としてすぐに壊し、リセットしてしまいますね。

陣内: そこが日本の最大の問題です。以前、環境経済学者の宮本憲一さんたちと一緒にイタリアの都市を巡ってセミナーをやったんですが、ローマでの議論のテーマがまさに「封建遺産をどう生かすか」でした。  考えてみれば、中国の万里の長城も、ヨーロッパの壮麗なお城も、元々は権力者が民衆を支配し、敵から防衛するために作ったゴリゴリの「封建遺産」です。しかし今は、それが観光資源になり、市民の憩いの場となり、世界遺産として愛されている。

 日本も全く同じなんです。一時は「封建遺産」と蔑まれたお城や外濠、あるいは流域の川湊といったインフラを、ただ壊すのではなく、市民のため、現代の生活感覚のために「意味を組み替えて」、次の時代の価値観にフィットするものに転換すればいい。  

 いっぺん作ったものが役割を終えた時、意味を組み替えて生き直させること。それこそが、最もその土地への「愛着」を呼ぶものになるんです。年輪や風格があるものを自ら壊すなんてバカげています。去年の大阪関西万博の巨大な木造リングだって、そのまま残しておけば立派な遺産になるのに、わざわざ壊すなんて本当にバカだよねと私は思います(笑)。

2025年の大阪・関西万博会場の大屋根リング(筆者撮影)

2025年の大阪・関西万博会場の大屋根リング(筆者撮影)

玉置: 意味を組み替え、レガシーとして再起動させる知恵。私たちが取り組む外濠の再生も、まさに江戸の防衛の遺産を「環境とアメニティのOS」として転換する挑戦です。

陣内: その通りです。東京は奇跡的に外濠などの水インフラが残った方ですが、地方都市は近代化の過程で外堀も内堀も埋めてしまったところが多い。だからこそ、今見えなくなっている土着のOSをもう一度「見える化」し、我々専門家がしっかりと理論武装して都市計画に組み込むこと。そしてメディアや若い人たちがそれを能動的に面白がって発信し続けること。  

 歴史を知り、バラバラにされた「山・川・里・海」の繋がりを現代のテクノロジーで編み直すことこそが、日本全体を生き返らせるための、真の「新しい街づくりのOS」になるのです。

陣内氏と筆者(左)

【編集後記:玉置の眼】

 これまでの街づくりは、「物理と化学」の世界だと思い込んでいた。鉄とコンクリートで大地を平坦に固め、経済合理性という計算式で効率を最大化する。だが、陣内秀信さんの言葉を浴びた後では、その景色が一変してしまった。

 「これからの理科は、生物と地学なんです」。陣内さんがさらりと言い放ったこの一言は、現代の都市開発に対する最も痛烈で、かつ希望に満ちた宣戦布告だ。

 夜の衛星写真に浮かび上がる、日本の不自然なまでの「海沿い偏重」の光。それは、かつて内陸の深部まで毛細血管のように張り巡らされていた「水運とテリトーリオ(流域文化圏)」を切り捨て、大地の起伏を「邪魔なもの」として封じ込めてきた、物理・化学OSの限界を象徴している。陣内さんが教えてくれたのは、そのアスファルトの蓋の下で、江戸以前の縄文から続く「古層」がいまも静かに、しかし力強く呼吸しているという事実だ。

 東京の随所に残る水都の形状記憶としての暗渠の痕跡、飯田の山奥に宿っていた驚くべき「都市性」、そしてサルデーニャ島の井戸に眠る「聖なる水」の伝承。一見「無駄」や「余白」に思えるそれらは、単なる過去の遺物ではない。陣内さんは、それらを現代のテクノロジーやMaaS、そして新しいライフスタイルと掛け合わせることで、もう一度「意味を組み替える」ことができると説く。

 封建遺産をレガシーへと転換し、見えない水脈に想像力の光を当てる。陣内秀信という稀代のフィールドワーカーが提示する「空間人類学」というOSは、私たちがこの国の地形と歴史に再入門し、自分たちの足元から「本当の豊かさ」を掘り起こすための、最高にエキサイティングな招待状なのだ。

●玉置泰紀(たまきやすのり) プロフィール 1961年大阪府生まれの編集者、プロデューサー。同志社大学卒業後、産経新聞記者、福武書店(現ベネッセ)を経て角川書店に入社。「関西ウォーカー」など4誌の編集長や総編集長を歴任した。現在は角川アスキー総合研究所に所属し、「エリアLOVEウォーカー」総編集長を務める傍ら、国際大学GLOCOM客員研究員や京都市埋蔵文化財研究所理事、東京文化資源会議幹事、国際文化都市整備機構理事など、地域の文化・観光振興に幅広く携わっている。

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