Mr.ウォーカー・玉置泰紀がキーマンに聞く「新しい街づくりのOS」 第7回
【国土交通省・後藤隆昭氏】防災は「共創のOS」である。シン・ゴジラのコミケ本『虚構と防災』が翻訳する、公助の限界を超えた都市のレジリエンス
公助の限界を超えて
「役所は助けに来られない」――震災の統計が突きつける、過酷な真実
玉置: 2018年の西日本豪雨の際、後藤さんはSNSなどでもかなり積極的に発信されていましたよね。当時、現場の状況をリアルタイムで伝えながら「公助には限界がある」というメッセージを一貫して発信されていたのが非常に印象的でした。昭和的な、いわゆる「お上がすべてを守ってくれる」という街づくりのOSは、今の激甚化する災害の前ではもう通用しない。これからは行政だけでなく、民間企業や地域コミュニティ、そこに住む一人ひとりが「防災×クリエイティブ」の視点で主体的に担うべき領域があるのではないか。そのあたりの「公助の限界」について、改めてお考えを伺えますか。
後藤: 「公助には限界がある」というのは、実は私個人が思っている以上に、今や政府としての「公式な見解」でもあるんです。……考えてみれば、防災って不思議な分野ですよね。役所が「自分たちにはできません」と公然と言える。他の政策分野では、心の中で思っていても普通は口にしませんよね。
玉置: 確かに。「できません」と断言するのは、行政としては勇気がいることですよね。
後藤: でも、それを言わざるを得ない理由が2つあります。一つは「リソース配分」の物理的な問題です。災害時に発生する膨大なタスクを、役所の人間だけでこなせるわけがないという冷徹な前提があります。 そしてもう一つが「時間」です。命を守るためには1分1秒を争う局面が必ず出てくる。そのクリティカルな瞬間に「役所が助けに来るのを待っていたら、あなたは助かりませんよ」ということなんです。これが、私が伝え続けているメッセージの核心です。
玉置: それは感情論ではなく、過去のデータが証明している事実なんですよね。
後藤: そうなんです。防災の世界でよく引き合いに出される数字があります。阪神・淡路大震災の際、瓦礫の下から助け出された方のうち、警察・消防・自衛隊といった「公助」が救助したのは、わずか1割に過ぎません。残りの9割は、家族や近所の人たちが助け出したんです。つまり、公助が届くのを待っていたら、その9割の方々は助からなかったかもしれない。 東日本大震災の津波も同じです。行政が「逃げろ」と言うのを待ってちゃダメなんです。大きな揺れがあったら、オフィシャルな指示を待たずに自らの判断で逃げる。防災を「お上がやってくれること」という他人事から、自分も当事者であるという認識へ。当たり前のことですが、この意識の転換こそが、街づくりのOSを書き換える第一歩なんです。
玉置: 「責任放棄じゃないか」と叩かれることもあるかもしれませんが、自分の家がどこに立っていて、大雨が降ったらどうなるかを一番よく知っているのは、結局、そこに住む本人なわけですからね。
後藤: まさにそうです。もちろん、役所は役所でやるべきことを全力でやります。しかし、土砂災害が迫っている時に「あなたの家がいま危ない」と最も早く察知できるのはあなた自身でしょう、と。 私はこれまで数多くの災害と長く付き合ってきましたが、一つ言えるのは「災害は常に人間の想定を裏切ってくる」ということです。関東大震災では火災の教訓を得て備えた。阪神・淡路大震災では建物の倒壊に直面し、一生懸命に耐震化を進めてきた。すると今度は東日本で、想像を絶する津波が来る。人間はどうしても直近の大災害に引きずられがちですが、リスクをゼロにすることは不可能です。
玉置: 「想定外」をどう受け入れるか、という話ですね。
後藤: はい。ゼロにはできないけれど、過去の経験則に学んで「確率を下げる」ことはできます。
玉置: 例えば、2018年9月、関西国際空港の滑走路やターミナルが浸水し、利用客ら約8千人が孤立した台風21号の際に、大阪市街地は一切の浸水被害が出ませんでした。あの時の高潮は、過去最大とされた伊勢湾台風をはるかに超える規模だったんです。それでも大阪が守られたのは、長年かけて徹底的に整備された水門システムが機能したから。土木技術の勝利であり、計算が勝った世界です。でも、守られたことは、あまりニュースにならないんですよね。
後藤: そう。「未然に防いだ被害はニュースにならない」。これは我々関係者の永遠の悩みです。ハード面での対策はもちろん、ソフト面でも「民」が守られる側から、自らリスクを計算して「創る側」へシフトしていく必要があります。逃げる準備も含めて、もっと一人ひとりが「防災のOS」を自分の中に実装していかなければならない。そう強く感じています。
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