このページの本文へ

科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第64回

【JSTnews1月号掲載】NEWS&TOPICS 創発的研究支援事業(FOREST)/研究課題「脳機能向上を生む全脳アストロサイトカタログ」

脳内の隙間細胞による、記憶を選んで残すメカニズム解明へ

2026年01月20日 12時00分更新

文● 中條将典

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 私たちの日々の多くの体験は、その全てが記憶として残るわけではありません。これまでに「エングラム神経細胞」と呼ばれる神経細胞群が全ての経験の物理化学的な痕跡を記憶として一時的に残すことがわかってきました。ただし、一部の記憶を定着させる仕組みは十分には解明されていません。

 理化学研究所脳神経科学研究センターの長井淳チームディレクターらの研究グループは、アストロサイトという脳に存在する神経細胞以外の隙間細胞の一種で、体験に応答して数分から数時間かけてFosと呼ばれる遺伝子が発現する様子を可視化・解析できる技術を開発。マウスに特定の場所で静電気ショックを与えた時(初回の体験)および数日後に再びその場所で体験を思い出す時(再体験)のFosの発現を調べました。その結果、Fosを発現するアストロサイトの集団は、エングラム神経細胞が存在する領域で再体験時にだけ数多く見つかりました。さらに、初回の体験後、アストロサイトは数時間から数日にかけて神経伝達物質「ノルアドレナリン」への応答機構を強め、再体験時にFosを発現させることがわかりました。Fos発現後の機構を撹乱(かくらん)すると、エングラム神経細胞の働き、記憶の安定性および正確性に影響することから、Fos発現という「スイッチ」は、強い情動を伴って繰り返される体験の記憶を定着させる機能があることが明らかになりました。

 情動と記憶の結び付きは、うつや心的外傷後ストレス障害(PTSD)など多くの精神疾患と関係があるとされています。今回の研究成果は、記憶を和らげたり、選んで残したりする治療に応用できる可能性があります。

初回の体験の際(左)とその体験を思い出す際(右)にFosが発現するアストロサイト集団(白い点)の分布。横棒は500マイクロ(マイクロは100万分の1) メートル。

カテゴリートップへ

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事

アクセスランキング

  1. 1位

    sponsored

    60年の時を超え「COBOL」がGitHub Copilotでよみがえる 勘定系アプリの“超難関”モダナイに7社が挑戦

  2. 2位

    ビジネス・開発

    富士ソフトがエンジニア1万人超を「AIネイティブ」化 実装力を武器にフィジカルAIなど3本柱に注力

  3. 3位

    ITトピック

    IT技術者の8割超「AI生成コードには人間のレビューが必要」/「偽・誤情報を見破れる」と自信を持つ人はICTリテラシーテストの正答率が低い、ほか

  4. 4位

    sponsored

    「現場に行くのが当たり前」を変えたアズビルのリモート調整 効果はプライスレス

  5. 5位

    TECH

    攻撃するAIと防御するAI 日本企業のセキュリティ対策にいま何が必要か?

  6. 6位

    デジタル

    東京タワー相当の紙を“完全撤廃” 点検業務をkintone化した“現場ファースト”な改善術

  7. 7位

    ITトピック

    実用化が楽しみすぎるスマート技術たち 「長距離ワイヤレス給電」から「室内向け太陽電池」「超音波センサー」まで

  8. 8位

    TECH

    パンや酒、チョコづくりにも関わる微生物「酵母」の進化を追求

  9. 9位

    デジタル

    IoTデバイスをサイバー攻撃から守る IoT向けゼロトラストの“3つのアプローチ”

  10. 10位

    ITトピック

    6割超の企業で「セキュリティは取引条件」 SCS対応も進む/パワハラと指導の違い、あなたの基準は?/AIへの危機感か 転職希望のIT人材が増加、ほか

集計期間:
2026年07月22日~2026年07月28日
  • 角川アスキー総合研究所