科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第127回
【JSTnews9月号掲載】さきがける科学人/戦略的創造研究推進事業ACT-X「予疲労変形を用いたき裂発生抑制による高強度鋼の疲労限度向上機構の解明」
超合金への憧れから、金属を「キントレ」で強くする手法を研究
2026年09月29日 12時00分更新
岡田和歩。物質・材料研究機構(NIMS)構造材料研究センター材料評価分野主任研究員。広島県出身。2022年京都大学大学院工学研究科材料工学専攻博士課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員(DC1)を経て、22年よりNIMS構造材料研究センター材料評価分野鉄鋼材料グループ研究員、25年より現職。23~26年ACT-X研究者。
Q1 研究者を目指したきっかけは?
A1 「超合金」ロボのアニメに憧れ
日頃から「なぜこうなるのか」という疑問が湧き、それを解き明かさないと気が済まない性格でした。そうして調べることを繰り返すうちに、科学への興味が深まっていきました。
金属に興味を持ったのは、アニメの「マジンガーZ」がきっかけでした。ロボットの装甲を「超合金」に変えると敵の攻撃が効かなくなる場面を見て、「強い金属はかっこいい」と憧れました。高校の科学部では銅と鉛の合金づくりに挑戦しようとしたのですが、先生に「高校生には難しい」と止められてしまいました。その後、京都大学工学部物理工学科へ進学し、専攻を選ぶ際に、あらゆるものづくりの土台となる材料工学を選びました。高校時代の心残りが後押しになった部分もあったと思います。
Q2 現在取り組んでいる研究は?
A2 鉄鋼材料の疲労耐性を高める
鉄鋼材料の疲労に対する耐性を高める研究をしています。金属は繰り返し負荷を受けると、き裂が生じ、やがて破壊に至ります。この疲労破壊は航空機などの事故にもつながるため、その耐性向上は重要な課題です。従来はき裂の進行を抑える「停留」によって疲労限度を高めようとする研究が主流でしたが、材料が高強度化すると停留が困難になる課題がありました。
学生時代にボート部に所属していた頃からの習慣で今でも筋トレを続けているのですが、ある時「なぜ人間の筋肉は繰り返し負荷で強くなるのに、金属は弱くなるのか」と疑問を持ちました。人間も強過ぎる負荷をかけるとけがをしますし、回復なしにトレーニングを続ければ過労になります。金属にとっての「けが」はき裂の発生です。ならばき裂が発生しない適切な負荷でトレーニングし、回復に当たる処置を施すと強くなるのではないかと考えました。
そこで「予疲労トレーニング」という手法を思いつきました。金属に繰り返し変形を加えると、表面に微細な凹凸ができます。凹凸は本来き裂の起点となる弱点ですが、き裂発生には至らない適切な負荷で凹凸に繰り返し変形を加えます。さらに、凹凸を研磨して除去すると凹凸が生じた箇所が以前より硬くなり、き裂の発生を抑制できるのです。この研磨が金属にとっての「回復」です。この手法により、超高強度鋼の疲労限度を従来の2倍に向上させることに成功しました。
現在は、この手法を水素ガス環境に適用する研究に取り組んでいます。最も小さな元素である水素は金属の内部に入り込んで脆化(ぜいか)を引き起こします。燃料電池自動車などの水素ガスインフラ整備に向け、より硬く薄い鉄鋼を安全に広く使えるよう、研究を進めています。
Q3 研究者を目指す人にメッセージを
A3 「ワクワク」を大切にして信じる道を
研究の魅力は、誰もが自分の取り組むテーマの先頭に立てることです。スポーツでは誰もが世界新記録に到達できるわけではありませんが、研究はスタートラインがすでに人類史の最先端です。そこから誰も到達していない領域へ進むために試行錯誤できるところに、スポーツとは異なる面白さがあります。人類の知の先頭を切っているという自負と責任を持って、これからも「き裂発生の抑制」という観点から壊れない最強の材料づくりに挑み、この分野の第一人者になりたいと考えています。これから研究者を目指す皆さんは、湧き上がる好奇心、ワクワクする気持ちを大切にし続けて、自分の信じる道を進んでください。
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