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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第120回

【JSTnews8月号掲載】さきがける科学人/戦略的創造研究推進事業さきがけ「海洋未培養ウイルスのサルベージとそのライブラリ化」

海洋からウイルスをサルベージし培養、産業の発展へ貢献

2026年08月25日 12時00分更新

文● 畑邊康浩

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高橋迪子。産業技術総合研究所 バイオものづくり研究センター 微生物システム創発研究チーム主任研究員。神奈川県出身。2019年東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科応用生命科学専攻博士後期課程修了。博士(海洋科学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、高知大学医学部特任助教を経て、25年より現職。21~24年ACT-X研究者、24年よりさきがけ研究者。

Q1 研究者を目指したきっかけは?
A1 論文が世界で読まれる達成感

 幼い頃の夢は絵本作家でした。絵を描くのも本を読むのも好きで、絵本作家は好きなことが詰まった最強の仕事だと思ったのです。その後、進学とともに興味の対象が変化し、大学では食品微生物学の研究室に入りました。

 研究者を意識したのは修士1年の時です。国内で発生したノロウイルス集団食中毒をきっかけに、「食品製造現場でノロウイルスはどの程度残り続けるのか」という疑問を持ち、実験系を立ててデータを集め論文にまとめました。初めての論文執筆には苦労し、先生方に教わりながら何度も書き直しました。その論文が国際誌に掲載された時、自分の研究を世界中に読んでもらえる達成感を得て、研究者という職業を意識するようになりました。図やデータと文章で論文という作品を世に出すという点では、絵本作家に通じるものがあるかもしれません。

Q2 現在取り組んでいる研究は?
A2 未培養ウイルスを再生する技術

 学生時代に食品分野でノロウイルスを研究して以来、分野を渡りながらもウイルスを軸に研究してきました。現在は環境中のウイルスの多様性や、宿主との関係性について研究しています。ウイルスは、たんぱく質の殻と核酸というシンプルな構造でありながら、海洋では赤潮の終息や炭素循環といったダイナミックな現象に大きな影響を及ぼしています。

 例えば海洋では、植物プランクトンが光合成によって取り込んだ炭素の一部が海底へ運ばれ、長期間蓄積されます。この仕組みは「生物炭素ポンプ」と呼ばれ、地球規模の炭素循環を支えています。近年、その効率にウイルスが関与していることが明らかになってきました。

 しかし、海洋ウイルスのほとんどは培養されておらず、その働きを実験室で直接調べることは不可能です。そのため現在は、環境中から得られたゲノム情報を基にウイルスの機能を推定する研究が中心となっています。

 そこで私は、未培養の海洋ウイルスを培養・再生するための手法開発に取り組んでいます。効率的な分離培養法の確立に加え、ウイルス遺伝子を合成して宿主細胞へ導入し、感染性粒子として再生する「サルベージ」技術の開発を進めています。培養・再生したウイルスをライブラリ化することで、ウイルスが海洋の炭素循環システムや生態系に果たす役割を実験的に解明したいと考えています。海洋には膨大な未利用ウイルスが存在しています。これらを培養・再生して機能を明らかにすることは、生態系の理解だけでなく、微生物制御技術やバイオものづくりなど、新たな産業利用につながる可能性があります。

細菌に感染するウイルス(ファージ)の感染実験の様子です。感染した箇所は透明な斑点を形成します。

Q3 研究者を目指す人にメッセージを
A3 自分の足で1次情報に触れて

 研究で大切にしているのは、興味を持ったら自ら行動することです。環境ウイルス研究の道に進んだのも、博士課程在学時にシンポジウムを聴講し、講演者の先生に直接話しかけに行ったことがきっかけでした。その出会いが縁となり、後にその先生の下で研究する機会を得ました。当時動いていなければ、今とは違う人生だったと思います。自分の足で1次情報に触れ、人とのつながりを築くことは、今後も大切にしたいです。

 研究は思うようにいかないことの連続ですが、自分の発見を論文として世に出せた時の喜びは、何にも代え難いものです。発見の面白さが他の研究者に伝わった時の手応えは、研究を続ける原動力になっています。

数年前からランニングを始めて、フルマラソンを完走できるようになりました。

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