科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第118回
【JSTnews8月号掲載】戦略的創造研究推進事業CREST 研究領域「細胞操作」/研究課題「量子スマートツール:温度シグナリング操作による神経/グリアの機能制御」
生命がわずかな熱を細胞内で維持する新しい原理を発見
2026年08月21日 12時00分更新
近年、単一細胞内で、発熱に由来する数℃程度の温度変動の存在が明らかとなり、生物学・医学で話題になっています。従来は、細胞内で熱は伝導によって素早く拡散して10万分の1℃程度しか上昇しないと考えられており、実測値との著しい差がなぜ発生するのか疑問視されていました。
東京大学大学院薬学系研究科の岡部弘基特任准教授らの研究チームは、微小領域における局所的な温度計測に用いられる蛍光性ポリマー温度センサーと赤外線レーザー照射による温度操作技術を統合し、細胞内の温度分布を時間分解能9ms(ミリ秒)、空間分解能280nm(ナノ*メートル)という極めて高い時空間分解能で追跡する新手法を開発。細胞を数秒間加熱した後の温度変化を解析した結果、細胞内で熱が拡散する速度が熱伝導モデルに基づく計算で得られるμs(マイクロ*秒)より劇的に遅く、数秒間も維持されることを発見しました。さらに、温度が元に戻る速度が著しく遅い原因として、細胞核や生体分子が関与していることと、細胞内の熱移動が熱伝導の基本的性質である拡散性を持たず、その場にとどまりながらゆっくり消失することを、実験により明らかにしました。
この結果は、細胞内において、熱は瞬時に拡散して消失するという従来の定説を覆し、生体分子の介在による特異な熱移動様式が存在することを示すものです。今後の生物学・医学における機能操作技術の開発のほか、生物の高いエネルギー効率や疾患メカニズムの解明に貢献することが期待されます。
*ナノは10億分の1、マイクロは100万分の1
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事
-
第131回
TECH
ネアンデルタール人と現生人類、貝殻の化石が明かす交流の真実 -
第130回
TECH
1つのありふれた材料から生まれたナノテクノロジーが化粧品から宇宙産業にまで -
第128回
TECH
探究を続けた先に見えてくる、研究者としての新たな「挑戦」 -
第127回
TECH
超合金への憧れから、金属を「キントレ」で強くする手法を研究 -
第126回
TECH
小腸がんにつながる新たな遺伝子変異を発見、診断・治療に期待 -
第125回
TECH
二酸化炭素を資源に変える新触媒、新しい合金を電気で合成 -
第124回
TECH
霊長類の色覚の仕組みを一部解明、視覚疾患の診断・治療の一助に -
第123回
TECH
地震時の被害を即時に把握し予測するシステムを、地震多発国ペルーと共同研究 -
第122回
TECH
「他者」を記憶するメカニズム解明へ! 自閉症への理解、治療法開発にも貢献 -
第121回
TECH
細胞の決定的瞬間を「ミリ秒」でとらえる! 顕微鏡開発の最前線 -
第120回
TECH
海洋からウイルスをサルベージし培養、産業の発展へ貢献 - この連載の一覧へ








