【レアメタル不要】“鉄触媒”で化学産業をひっくり返す。京大発ベンチャーの挑戦
円安時代に浮上する「鉄」という選択肢
円安と国際情勢の荒波で、素材コストがじわじわ上がっている。特に化学業界では、パラジウムやニッケルといった輸入レアメタルに依存した触媒反応のニーズが多く、供給リスクが大きな課題だ。そんななか、「もうレアメタルはいらん」と鉄で勝負をかけるのが、京大発のスタートアップ、株式会社TSKだ。
“扱いにくい金属”を産業化レベルへ
同社が開発するのは、一般的に「扱いが難しい」とされてきた鉄触媒反応を、産業化レベルまで引き上げる技術。レアメタルの代わりに、豊富で安価な鉄を使うことで、環境負荷を下げつつ材料の国産化を実現できる。想定する応用分野は有機EL材料や医薬、農業用素材など幅広く、化学産業をひっくり返す可能性を秘めている。
もともと鉄触媒による有機合成は、反応が制御しづらく実用化が難しいとされてきた。ところがTSKのCTOである京都大学教授・中村正治氏(発明当時は東京大学助教授)は、鉄と配位子(反応を安定化させる分子)を独自に設計・合成することで、望みの反応性を自在に引き出すことに成功。2017年には、既存のパラジウム触媒では不可能だった分子構造の構築を実現し、電子材料や医薬品合成に直結する反応技術を確立した。つまりTSKは、「鉄でもできる」ではなく「鉄だからできる」反応を武器にしているのだ。
「鉄フルボさん」に見る関西流リアリズム
とはいえ、ディープテックはすぐに収益化できない。そんな中、TSKが世に出したのが、植物の活力剤「鉄フルボさん」だ。ネーミングのゆるさに反して中身は本格派。鉄イオンと栄養に富むフルボ酸を組み合わせた農業資材として、じわじわ支持を集めている。
巨大な産業構造の転換を狙いつつ、現実的に“食えること”も忘れない。そのバランス感覚こそ、関西の大学発スタートアップらしさかもしれない。TSKの目指す「レアメタル不要の世界」は、意外と泥臭く、でも着実に地に足をつけて進んでいるのだ。











































