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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第41回

【JSTnews10月号掲載】さきがける科学人/創発的研究支援事業(FOREST)「 脳内におけるERK活性の可視化と機能解明」

妊娠・出産期に母親の脳に起こる変化を解明し、安心して出産できる環境づくりへ

2025年10月16日 12時00分更新

文● 畑邊康浩

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幸長 弘子。兵庫県立大学 理学部 准教授。兵庫県出身。2014年京都大学大学院医学研究科で博士号取得。博士(医学)。理化学研究所生命機能科学研究センター研究員、京都大学生命科学研究科助教などを経て、24年より現職。同年より創発研究者。

Q1 研究者を目指したきっかけは?
A1 多様なコミュニティーに惹(ひ)かれた

 研究者になりたいと思ったのは大学院の修士課程の頃です。大学院では研究自体も面白かったのですが、何より周りにいる研究者の方々が魅力的でした。才能あふれる多様な人たちに惹かれ、そんな刺激的なコミュニティーに自分も身を置きたいと考えるようになりました。

 高校の時は物理が好きでしたが、もともと自分の体がどうやって作られているのかに興味があり、それを形作る食べ物について知りたいと思ったことと、食べることが好きだからという理由で農学部に入学しました。

 大学で分子生物学を勉強し始めると、生物が緻密な計算に基づいて理路整然と機械的に動いていることに物理と同じような面白さを感じました。さらに、生物全体として非常にうまく機能していることを知るにつれて、もっと深く勉強したいと思うようになり、大学院に進みました。

Q2 現在取り組んでいる研究は?
A2 妊娠期の神経回路の変化に着目

 現在は、女性の妊娠期から出産期、授乳期における脳神経の変化を研究しています。この時期は、母親のお腹が急激に大きくなり、いろいろな臓器の形が変わる、人生の中でも特に変化の大きな時です。そうした変化を、母親の脳がどのように制御しているかは、まだあまり研究されていない分野です。

 最近になり、妊娠期には神経回路が大きく変化することがわかってきました。その変化が起こる時には、新しいたんぱく質が作られ、新たな回路が構築されています。私は、ERK(アーク)と呼ばれる、神経系細胞内の情報伝達分子に関わるたんぱく質の活性を可視化することで、神経回路が編成されるタイミングを調べることに挑戦しています。

 ERKは脳内で記憶や神経の可塑性に関わることが知られていますが、生きているマウスの神経での研究はまだほとんどありません。調べてみると、神経細胞でもERKの活性が多様なパターンを示すことがわかってきました。そのパターンによって具体的に何が起こるかを調べるのが次の目標です。

研究室の学生とERKの観察をしている様子です。普段は光が入らないように、暗室の中のさらに暗幕で囲まれた顕微鏡で観察しています。

Q3 研究者を目指す人にメッセージを
A3 素朴な疑問を持つことを大切に

 研究者という職業の魅力は、日常生活で不思議だと感じたことを、実際に自分で調べられることだと思います。例えば、SNSや雑誌などでは「これをすると赤ちゃんに良い/悪い」といった情報が数多くありますが、科学的な裏付けがないものも少なくありません。将来的には、自分の研究成果を活かして、看護師や助産師と連携し、科学的根拠に基づいた情報を提供することで、母親が安心して出産や育児に臨める環境を作っていきたいと考えています。

 研究でやりがいを感じるのは興味深い結果が出た時です。しかし予想通りにいかず、その原因を考えて「こうなのかもしれない」と新しい仮説にたどり着いた時に、より大きな達成感があります。

 これから研究者を目指す人には、素朴な疑問を持つことを大切にしてほしいです。今はあらゆる情報があふれている世の中なので、正しい情報を見極める力をつけるためにも勉強は必要です。科学を知識としてだけでなく、考える道具として使うことを意識して「どうしてだろう」と問いかける姿勢を培うことが大切だと思います。

所属する兵庫県立大学のキャンパスは、緑と野生動物いっぱいの環境です。

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