このページの本文へ

科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第31回

【JSTnews9月号掲載】NEWS&TOPICS 研究成果「戦略的創造研究推進事業ERATO上田生体時間プロジェクト」

吸入麻酔はなぜ効くのか? 完全には解明されていないその仕組みを研究

2025年09月11日 12時00分更新

文● 中條将典

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 吸入麻酔薬は外科手術の全身麻酔などに不可欠ですが、どのような仕組みで効いているのかはまだ完全には解明されていません。これまでの研究で、吸入麻酔薬が作用して効果を発揮する細胞内のたんぱく質として複数のものが知られていますが、作用する仕組みに関わる未知の標的分子が他にも存在すると考えられています。

 東京大学大学院医学系研究科の上田泰己教授らの研究チームは今回、吸入麻酔薬が「1型リアノジン受容体(RyR1)」と呼ばれる細胞内のたんぱく質を活性化し、この標的分子が全身麻酔の導入に関与していることをマウスの実験で初めて明らかにしました。

 研究チームは、まず細胞株を用いた実験で、イソフルランをはじめとする吸入麻酔薬がRyR1を活性化し、細胞内の構造体である小胞体からのカルシウム放出を促すことを確認しました。次に、イソフルランに反応するRyR1と、反応しない2型リアノジン受容体をさまざまな割合で融合した受容体を作成し、イソフルランによる活性化に重要な役割を果たすRyR1のアミノ酸の箇所を特定し、その結合部位を推定。さらに、通常と異なるRyR1を持つように遺伝子改変を施したマウスは麻酔への感受性が部分的に低下すること、イソフルランの推定結合部位に作用する新規化合物をマウスに投与すると鎮静作用に近い効果があることを見いだしました。

通常と異なるRyR1を持つマウス(RyR1変異体ノックインマウス)はイソフルランの効きが悪くなる(左)。イソフルランの結合部位に作用する新規化合物をマウスに投与すると、効きが良くなる(右)。

 この成果により、吸入麻酔薬が生体内でどのように作用し、全身麻酔を誘導するのかの理解が進みました。今後、より優れた麻酔薬や投与方法の開発につながる可能性があります。

カテゴリートップへ

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事

アクセスランキング

  1. 1位

    TECH

    ホワイトハッカーの卵たちが“OTセキュリティ”を通して育む、これからのセキュリティ意識

  2. 2位

    TECH

    量子力学に強く惹かれ、量子ビットの高性能化に一貫して取り組む

  3. 3位

    ITトピック

    AI時代の高スキルIT技術者“争奪戦”/AIの成果創出に進む日本企業、障壁は/7割の企業で「AIの不具合」、安全性や財務の影響実態、ほか

  4. 4位

    デジタル

    「前例をなぞって楽をしていた」―― 滋賀県のkintone活用を好転させた“失敗起点のフレームワーク”

  5. 5位

    デジタル

    ヤマハ、RTX840/RTX1300のDNS防御を強化 拡張ライセンス「YSL-CLDDNS」発売

  6. 6位

    sponsored

    「運用負荷を下げなければ、セキュリティは高まらない」 企業が直面するネットワーク運用の難題にどう向き合うか

  7. 7位

    デジタル

    ヤマハ、Wi-Fi 7対応「WLX333/WLX232」に運用支援機能 「Wi-Fi快適度」を可視化

  8. 8位

    ソフトウェア・仮想化

    VMwareはセキュリティを提供する企業 Broadcom買収から3年後の現在地

  9. 9位

    sponsored

    生成AI活用で業務変革を進める宇宙スタートアップ企業アストロスケールホールディングス(Microsoft 365 Copilot導入事例)

  10. 10位

    TECH

    【12/3・参加無料】情シスの皆さん、今年の“ヤバかった話”で忘年会しませんか? セキュリティ談義とクリスマスグルメで乾杯!

集計期間:
2026年10月31日~2026年11月06日
  • 角川アスキー総合研究所