インテルがLocal Glueless Busの仕様をPCI-SIGに寄贈
これをもとにPCIが誕生する
以上が基本的な方針となるが、もっとも実装としては基本的にはパラレルバスにしかしようがないし、必要とされる帯域から配線の数を勘案するとPoint-to-Pointは論外で、共有バス形式しかありえない。信号を33MHzに定めたのはわりと勇気ある決断だったとは思うが、結果から言えば周辺機器メーカーなどもなんとかこれに追従してくれることになったので、電気的仕様の検討は比較的時間がかからなかった。
その一方でバスプロトコルやPlug&Play実装の基本となるConfiguration Spaceというメモリー領域の構成などの論理的な部分に関してはけっこう設計に時間がかかったらしい。それでも1991年には叩き台となるLocal Glueless Busとして基本設計が完成、そこから業界各社に打診することになる。
もっともこの打診というのは、IALに参加しているエンジニアが草の根的に、さまざまなイベントやワークショップなどで知り合った他社のエンジニアにLocal Glueless Busの説明をして関心を惹く、といった地道なものだったらしい。
この時期、インテル社内でもこのLocal Glueless Busをどうするかで方針がコロコロ変わっており、積極的に他社にアピールできる状況ではなかった、というのが正直なところだったようだ。ただ最終的に神の一声で方針は決まった。当時CEOだったAndy Grove氏がIBMに対してPCIのトップ営業をかけたのだ。Grove氏はLocal Glueless Busの推進派であり、これを本格的に軌道に載せるためにはビッグネームのOEMを獲得することがどうしても必要である、と考えた結果の行動だそうだ。
ここで採用が(内々で)決まったことで、インテルはLocal Glueless Busをオープンなものにすることを目論む。この結果として1992年に結成されたのがPCI-SIGである。PCIはPeripheral Component Interconnectの略で、SIGはSpecial Interest Group(それに興味がある会社の集まり)の意味であるが、これはまずはインテルの主導で発足され、インテルはLocal Glueless Busの仕様をPCI-SIGに寄贈。このLocal Glueless Busの仕様を叩き台としてPCI v1.0が1992年6月にリリースされる。
これと並行してインテルはチップセットの開発も始めている。もともとLocal Glueless Busをベースにしたものはあったらしく、あとはPCI v1.0に準拠する形での修正をすればよかったため、1993年には最初のチップセットであるIntel 430LXを発表している。
ここからの歴史は連載109回に書いた通りだから割愛するとして、ではPCIはどう消えていったかという話を最後にしよう。
90年代のI/OバスとしてPCIは君臨し、広範に使われた。しかもPCIそのものも33MHz/32bit以外に66MHz駆動や64bit幅のものも後追いで追加され、さらにその後継であるサーバー向けのPCI-X(100~533MHz/64bit幅)も追加されたが、パラレルバスのままの266MHz/533MHz化はかなり厳しく、特に533MHz動作ではスロットが1つだけという、まるでVL-Busみたいなことになってしまった。
その一方でCPUは順調に性能を上げており、ここでまたCPUとI/Oバスのミスマッチが発生した。次回説明するAGPはGPUカードのみのワンポイントソリューションであり、広範に利用できるものではなかった。そのあたりもあって2000年にPCI Expressのベースとなる3GIOが登場し、これがPCI Expressとして標準化した2002年から、PCIからPCI Expressへのシフトが始まった。もっともこのシフトはかなりゆっくりである。
2010年頃はまだPCIが普通に使われていたが、それでもハイエンドマザーの中にはPCI Expressだけという製品が登場し始めた。2015年くらいになると普及帯向けのマザーボードもほぼPCI Expressのみとなったが、それでも2024年2月にPCIスロットを持った製品が登場したりしているし、まだ組み込み向けにはPCIスロットを搭載した製品(例えば旧PFU、現RicohのFB22/FB22M)が出荷されていたりする。
したがって、まだ完全に消えたとは言い難いが、さすがにそろそろPCIの拡張カードの新製品なども見かけなくなってきた。その意味では、「コンシューマー向け」からは消えたI/F、と言えばいいのだろうか?

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