X(旧Twitter)を所有するイーロン・マスク氏と、ブラジルの連邦最高裁判所の判事が対立を深めている。
連邦最高裁のアレシャンドレ・デ・モラエス判事は2024年8月30日、ブラジル国内でXのサービスをブロックするよう命じた。30日付の命令後、ブラジルの電気通信庁が、国内のサービスプロバイダー各社に対して、ブラジル国内からXへのアクセスをブロックするよう要請を出した。31日のCNNブラジルの報道によれば、ブラジルではおおむねXにアクセスできなくなっているという。
日本から見ていると、ブラジル最高裁の決定は、ひどく乱暴な措置に見えるが、実際に大手プロバイダー各社が加盟する団体が、電気通信庁の要請に従うとの声明を出している。ブラジルは約2148万ユーザー(2024年4月時点、STATISTA)がいる、Xにとっても重要な市場だ。マスク氏とモラエス判事の対立はなぜ、これほど深まったのだろうか。
発端はブラジルの政府機関襲撃事件
問題の発端は、2022年10月のブラジル大統領選にさかのぼる。大統領選では、現職のルラ大統領がボルソナロ前大統領を破ったが、2023年1月8日、選挙結果には不正があったと主張するボルソナロ氏の支持者らが、ブラジルの首都ブラジリアの大統領府などを襲撃した。連邦最高裁判所、議会も襲撃され、立法、行政、司法の三権を担う機関の内部が次々に破壊された。
この事件は、ブラジルでは「1月8日事件」と呼ばれている。大統領選の前後から、Xを含むブラジル国内のSNSでは、電子投票システムに不正があるとする偽情報がポストされ続け、最終的に襲撃を呼びかけるツールになった。2021年1月に米国で起きた議会議事堂襲撃事件とも重なる部分が多い事件だが、ブラジルでもやはりSNSで拡散される偽情報の監視強化をめぐる議論が巻き起こった。
マスク氏vsモラエス判事の全面対決
偽情報への対策に乗り出したのが、モラエス判事だ。モラエス判事は、法務大臣を務めたこともある大物裁判官だ。判事は4月7日、大統領選に関する偽情報や対立する陣営へのヘイトを助長する情報を拡散したとして、X側に対して、複数のアカウントを停止するよう命じた。
これに対して、マスク氏は「ブラジルでそんな検閲を求めるのか」とTwitter上で反論し、アカウントの停止を拒否した。こうした対立が先鋭化すると、マスク氏の対応は徹底的に大人げない。モラエス判事を「ブラジルのダース・ベイダー」とツイートして対立をあおる。マスク氏はさらに、8月18日には、「違法な検閲命令には従えない」として、Xのブラジルのオフィスを閉鎖し、40人の社員も全員を解雇した。この際、Xの公式アカウントは「判事の行動は、民主的な政府と相容れない」とツイートしている。2000万人を超えるユーザーをあっさり手放すことにしたのだろうか、あるいは、いずれはブラジルの最高裁が折れると踏んでいるのだろうか。
Xのブラジル支社が閉鎖されたことで、ブラジル国内には裁判所の要求に対応できる代理人が存在しなくなった。モラエス判事は、Xに対して8月28日までにブラジル国内の代理人を指定するよう求めたが、X側は応じない。結果、モラエス判事はブラジル国内におけるXのサービス停止という強い措置に踏み切った。
Blueskyのユーザーが増えた
興味深いのは、ブラジル国内でXのサービスが停止される前後から、Blueskyという比較的新しいSNSのユーザーが増えたという動きだ。BBCブラジルによれば、Xのサービスが停止された31日前後に、Blueskyのユーザーは100万人ほど増えたという。
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